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第七章「しあわせのいえ」―4―

園長が戻っていった後、有沙は皆の前で朗読をした。
どの子も静かに聞いてくれた。
「こうして、みんなはいつまでも、幸せに暮らしたのです……」
話を終えた有沙が本を閉じた。
すると、先ほどの男の子が、有沙の傍にきて話しかけてきた。
「ねえ、僕も幸せになれるのかな」
尋ねる男の子の表情は、不安げに曇っている。
一見、賑やかで楽しそうにしていても、ここにいる子供達は、心の中に埋められない悲しさ、寂しさを持っている。
この施設にいるということは、自分の意志とは無関係に、大人の身勝手や社会の矛盾を背負わされた結果なのだ。
「順君は良い子ね。――なれるわよ。みんな幸せになれるわ……」
有沙は、幼い順少年の頭を、そっと撫でた。
そして、両手で抱えて膝の上に乗せた彼の体を、後ろから抱きしめた。
彼は、ここにいる子供達の中で一番年下の子だ。
まだ気持ちの切り替えが上手く出来ず、ほんの些細な事でも激しく動揺して、心が不安定になる危うさを抱えている。
自分自身も施設出身で、孤独な辛さに打ちひしがれ、ふさぎ込んでいた経験がある有沙には、彼の気持ちが理解出来たが、それを口には出さなかった。
どれだけ考えたとしても、その人の苦しみは本人にしか分からない。
思いやることはできても、全く同じものを共有することはできないのだ。
それを無視して、気持ちは分かると軽々しく言葉を並べることは、時に相手の心を傷つけることになる。
子供の場合、後々まで残る深い傷になってしまう恐れもある。
あまりずけずけと、不用意に踏み入り過ぎてはいけない。
何も言わずに包み込むのも大切であると知っていたからこそ、有沙は、注意深く、穏やかに接することを心がけていた。

「大丈夫……。私はあなた達の味方だから……」
順少年は、母親の腕の中にいるように安心した気持ちになり、目を閉じて、やがて眠った。
彼を寝かせた有沙は、園長達に見送られ、しあわせのいえを後にした。
シートに跨ってヘルメットを被り、片手を挙げて見送りの声に応える。
マシンゼクトロンが地面を滑るように、軽快なエンジン音と共に走り去っていった。
それを見届けて元気よく帰っていく子供達の後ろから、園長が、ゆっくりと施設の中に入っていく。
ところが、有沙が乗ったマシンは、施設から少し離れた所で、何故か停止していた。
エンジンも完全に切っている。
ヘルメットを脱いで、さっきまでとは違う、強ばった厳しい表情で、施設の方を見つめている。
その時、有沙の携帯電話が鳴った。
プライベート用ではなく、仕事用のものだ。
「はい。……了解」
ごく短く返答し、通話を切る。
ワームの出現を知らせる連絡だった。
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研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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