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「大きな家の素敵な鏡」

引っ越し先を決めるに当たって、ある四人家族が郊外の物件を下見に訪れた。
大きな二階建ての一軒家だ。
建てられてから長い年数が経っているものの、趣向を凝らした外観や内装は、現代の人間から見ても古臭い雰囲気を感じさせず、実用性を兼ね備えた見事な造りになっている。
また、手入れが行き届いているお陰で新築の家のように清潔に保たれており、住みやすさも申し分ない。
広い庭も付いているため、育ち盛りの子供たちが遊ぶにも都合が良いだろう。
ここで新しい生活を始めたいという妻の意見は、家族全員の考えと一致していた。
ただ、夫妻にとって一番の決め手になった理由は、他にある。
先に述べた数々の要素も素晴らしかったが、それ以上に魅力的だったのは、破格とも言える値段の安さだった。
支払いの大半が土地代だけで済み、家そのものは非常に安価で購入することができたのだ。
契約書に署名した夫は、おそらく建物が古いからだろうと考え、それほど気にしていなかった。

「――ここが新しいおうちなのね」
まだ幼い巻き毛の少女は、うっとりした表情で呟いた。
引っ越し業者に料金を支払い終えた両親は、家具の配置について居間で話し合っているが、そんな話は子供にとって退屈なだけだ。
夫妻の子供たち――十歳の兄と七歳の妹は、今日から暮らし始める家の中を、改めて探検することにしたのだった。
兄の方は一階を探索している。
一人で二階に上がった妹は、子供部屋の奥にある窓に歩み寄った。
前面には両開きの扉が取り付けられており、今は閉まっている。
そこだけが他の窓と違う形をしているために、引っ越し前から妙に気になっていたのだが、その時は開く機会がなかったのだ。
大きく背伸びをして扉に手をかけ、そっと開け放つ。
「あら?」
彼女は小首を傾げた。
目の前には、自分と同じ姿の少女が不思議そうな顔で立っているではないか。
試しに片手を上げると、向こうの自分も同じように動いた。
てっきり窓だと思ったが、どうやら思い違いだったらしい。
「まあ。窓みたいな形の鏡なんて、なんだか素敵だわ」
一目で気に入った彼女は、その前で身だしなみを整えると、また一階に下りていった。

しばらくして、妹と入れ替わりに二階に上がった兄は、先程まで彼女がいた場所に立って、そこから外を見下ろした。
両開きの扉が付いている洒落た窓からは、庭の全体をガラス越しに見渡すことができる。
これだけの広さがあれば、キャッチボールをするにも十分だろう。
窓から離れて部屋を見渡した後で、彼は満足そうに階段を下りていく。

子供部屋には鏡は一枚もないことを妹が知らされたのは、ちょうど夕食の席に着いた時だった。


[完]
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プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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