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『幽霊屋敷に遊びに行こう!!』その2

意気込んで出発した菜摘は、それから数時間かけて、足が棒になるまで歩き回った。
しかし、そうした彼女の努力にもかかわらず、昼間に目撃した“新手のスタンド”は、影も形も見当たらない。
はっきり言って、めぼしい収穫は全く得られなかった。
最近になって、この町で“スタンド使い”が増えていることは、菜摘も知っている。
そこから推測して、面影町の住人が“本体”だろうとは思うが、その人物を特定できるような目印が何もないのでは、どうしようもない。
とうとう捜索を断念した菜摘は、使い込まれた感のある革製の鞄を枕代わりにして、沈みかけている夕日に照らされた川沿いの土手に寝転がった。
川を挟んだ向こう側を、制服姿の男子高校生が歩いているのが見える。
家に帰る途中だろうか。
「……もしかしてアイツじゃねーよな。いや、ないない……」
視線の先を横切る少年――藍沢祐樹を見送った菜摘は、ぼんやりと夕日を眺めながら呟いた。
こうしていても仕方がない。
自分もアパートの部屋に帰ろうとは思うが、どうにも億劫で、なかなか起き上がる気になれない。
あれだけ動いた割に、何の成果もない骨折り損に終わった――そういう思いがあるせいで、単純に肉体的な疲労だけでなく、精神的な疲労感も大きかった。
誰も見ていないのをいいことに、また大きな欠伸をした菜摘は、積もり積もったストレスを発散するために、一人でブツブツと愚痴を言いはじめた。
「……やってらんねー。あ~あ、ダルいダルいダルいダルい……。あんだけ頑張ったのに、今日はツイてないなぁ……。晩ご飯なに食べよっかな……。冷蔵庫に、なんかあったっけ……」
その時、頭の下で軽快な着信音が鳴った。
相変わらず横になったままの状態を崩さず、手探りで鞄の口を開けて、そこから携帯電話を取り出す。
――ちぇっ、誰だよ。こんな時にメンドくせー……。
内心で毒突きながら携帯の画面を見ると、同じ大学に通う友人からの着信だった。
通話ボタンを押して、電話に出る。
「もしもし?あー、どっか行こうって?今から?えっと、ゴメン。ちょっと疲れてるから、あたしはいいよー。二人で行ってきなって。うん……じゃあ、また明日ねー」
そうして電話を切ると、菜摘はため息をついた。
遊びに行かないかという誘いだったのだが、これを断った理由は、疲れているからだけではない。
電話してきた友人――亜紀子が、最近になって付き合いだした新しい恋人を連れてくるのが分かったからだ。
その二人の中に入るのは、いくらなんでも居心地が悪い。
「――ったく……。オメーらがイチャついてる間、あたしはどうすればいいんだっつーの。まさか、わざとやってんじゃねーだろーな……亜紀子のヤツ」
口では文句を言う菜摘だが、亜紀子は別に悪い人間ではない。
ただ、いわゆる天然ボケなのだ。
そのせいか、人の神経を逆なでするようなことを無意識の内にやってしまうといったような場面が、以前から度々あった。
彼女のためにも、こういうことが次にあったら、ちゃんと注意しておいた方がいいかもしれない。
「ああッ!今、何時ッ!?」
それまでの様子から一転して、いきなり菜摘は飛び起きた。
この時間帯から、近所のスーパーマーケットが、売れ残った総菜類に半額シールを貼りはじめることを思い出したのだ。
例の“スタンド使い”を捜すことに夢中になって、すっかり普段の日課を忘れていた。
腕時計を見て、現在の時刻を確認する。
午後六時ちょうど――まだギリギリ間に合う。
しかし、すぐに行かなければならない。
そうしなければ、飢えたハイエナのように貪欲な主婦たちに、根こそぎ持っていかれてしまうだろう。
素早く立ち上がった菜摘は、鞄を肩にかけると、地面を強く蹴って全力で走りだす。
彼女がいなくなってから数分後、犬を散歩させているジャージ姿の中年男性が、トボトボと土手の上を通りかかった。
ふと立ち止まり、左手に巻いた腕時計に目をやる。
文字盤は、現在の時刻が午後六時五十分であることを示していた。
そして、彼の時計は、極めて正確だったのだ。
どういう訳か、菜摘の時計は相当に遅れていたのである――。

次の日の朝っぱらから、菜摘は不機嫌だった。
昨日は散々だった上に、アパートの敷地を出る直前で、不覚にも大家に呼び止められて、聞きたくもない話を聞かされたのだ。
いつものように、ほとんどの部分は適当に聞き流したが、それを要約すると、以下のような内容だった。
「滞納している分と合わせて、今月こそ家賃を払ってもらえるんでしょうねェ~?」
菜摘は考えた。
実際のところ、いまだに確固たるアテはない。
正直に言うべきか?
早めに話した方が、許してもらえる確率は上がるだろう。
しかし、宣告された支払い期限まで、あと二日は残っている。
土下座するのは、できれば本当に最後の手段にしたい。
とりあえず、どうにか取り繕って、このババアの追求を切り抜けよう。
「あ……あッたりまえじゃないッスかァ~!もうバッチリッスよ。何度も約束を破るようなヤツなんてサイテーですから。ね、ね、ね」
そう言って愛想笑いを浮かべた菜摘は、大家の返事を待たずに、その場から逃げるように立ち去ったのだ。
しかし、いよいよ追いつめられてきた。
勢いに任せて、つい調子のいいことを言ってしまった以上は、なんとしてでも金策をしなければならない。
昼下がりのキャンパスで、ああでもないこうでもないと頭を働かせながら、自分で作ってきたオニギリを食べていた時、女友達の一人が話しかけてきた。
「ねえ、菜摘。あんた、亜紀子がドコ行ったか知らない?」
「は?なんで?」
頭の中は、どうやって金を工面するかという考えでいっぱいだったが、菜摘は詳しい話を聞いてみた。
彼女によると、亜紀子と例の恋人が、忽然と消えてしまったらしいのだ。
二人とも町内の実家で暮らしているのだが、昨日の夕方に出掛けたまま、今日の昼間になっても連絡がない。
それを心配した亜紀子の母親が、恋人の実家に電話したところ、彼の方も連絡がないし、家に帰ってもいないという。
こんなことは今までになかったらしく、すっかり不安になった亜紀子の母親は、娘の行き先を知っていそうな人に片っ端から聞き回っているらしい。
「さぁ……分かんないなぁ……。行き先も見当つかないし……」
菜摘は、そう答えただけだった。
昨日の夕方に、亜紀子から電話がかかってきたことは言わなかった。
行き先を知らないのは事実だし、こっちは今それどころではない。
アパートから追い出されるかどうかの瀬戸際にいるというのに、余計なことにかかわっている余裕はないのだ。
亜紀子の母親には悪い気もするが、二人とも子供ではないのだから、その内ひょっこり帰ってくるだろう。
「――これも“スタンド使い”の仕業だったりして……。じゃあ、あたしの懐が寂しいのも“スタンド使い”のせい……!なーんて……まさかね。なまじ“スタンド”を知ってると、なんでもかんでも、すぐ“スタンド”に結び付けちゃうからなぁ。いかんいかん」
友人たちと別れたあと、菜摘はポツリと呟いた。
菜摘は、志賀と同じく、生まれながらの“スタンド使い”だった。
最初に自分の“能力”を自覚したのは、今となっては思い出すのも難しいくらい幼い頃だったと思う。
鏡やガラスや水面などの“映るもの”を覗き込むと、そこに“別の世界”が見えるのだ。
その“世界”では、魚やクラゲが空を飛び、鳥や昆虫は海の中で生活していた。
森の植物は、どれも複雑に曲がりくねって、地面から真っ直ぐに伸びているものは一つとしてなかった。
もっとも、そんな程度のことは序の口だった。
現実ではありえないような奇妙な姿の動物や、不思議な形に曲がりくねった植物――そうしたものは、ここでは当たり前に存在しているものだったのだ。
もし普通の常識を持っている大人が見続けたなら、正気を失いかねないような“奇怪な世界”も、現実に縛られない柔軟な想像力を持つ少女にとっては、飽きることがない“愉快で楽しい世界”だった。
しかし、しばらくして菜摘は、この“別世界”が、どうやら自分しか見えないらしいということを知った。
自分の見ている“別世界”のことを母に告げると、どこかおかしいのではないかという理由で、医者に連れて行かれてしまったのである。
それ以来、自分の“能力”を人に話すことはなかった。
自分が、他の子とは違う変な子だと思われるのが嫌だった。
しかし、最も身近な人間である家族からの理解を得られなかった彼女の心は、既に傷付いてしまっていた。
悪いことに、家族の方も、そのことに気付かなかった。
成長するに従って、菜摘の心の傷は大きくなり、家族とも上手くいかなくなっていった。
「自分は、他の人とは違う人間なんだ。みんなと一緒じゃないんだ」
そう思うようになった彼女は、徐々に周囲から孤立するようになり、高校生になる頃には荒れに荒れて、教師も手を焼くほどの不良少女になっていた。
授業をサボってタバコを吸い、酒を飲み、派手な化粧をする。
そんな状態だった菜摘は、いつしか一人の美術教師と親しくなった。
学校内では一番の古株で、年齢は知らなかったが、菜摘には六十歳くらいに見えた。
彼は白髪頭で、いつも顔に柔和な笑みをたたえていたものだ。
当時の菜摘は、夢や目標といったハッキリしたものは特になかったが、芸術やデザインといった領域には、ひそかに興味を抱いていた。
現実にはありえないものを表現できるという点に、誰にも言えない自分の“能力”との共通点を見出し、親近感を覚えたからだった。
ある日のこと、誰もいない美術室で、そこに置いてあった画集を眺めていた時、菜摘は後ろから声をかけられた。
「絵が好きなのかい?」
振り返ると、そこに件の教師が立っていたのである。
なんだか照れくさくなった菜摘は、急いで本を閉じて、ぶっきらぼうに言い捨てた。
「別に。そういうのじゃねーよ」
しかし、これがきっかけとなって、菜摘は彼と親交を深めるようになった。
美術のことを教えてもらうこともあり、菜摘は絵を描くことに対する興味を、更に強くしていった。
そして三年生になり、いよいよ今後の進路を決めなければならないという時期になって、今まで隠してきた“能力”の秘密を打ち明けたのである。
自分の見ている“世界”――自分だけに見えている“世界”を、目に見える形で表現したい。
そうするためには、絵で描写するしかないし、自分は絵を描くことが好きだ。
だから、将来は絵に携わる職業に就きたい。
そう訴える菜摘を前にして、先生は笑うことも気味悪がることもなく、こう言った。
「私もね、若い頃は絵を描く仕事に就きたかったんだ。でも、駄目だったよ。君には、私の分も夢を叶えて欲しい。その時が来るのを楽しみにしているよ」
「ま……任しといてよ!あたしが有名になって、センセーのことも有名にしてあげるから!ふふっ、センセーがポックリ逝っちゃう前にさ!」
「どうかな?それまで持ちこたえられるといいけどね」
放課後の美術室で、二人は笑いあった。
そして卒業式を迎えた菜摘は、先生から、一つの古い“額縁”を受け取った。
彼が若い頃に使っていたもので、卒業祝いだそうだ。
菜摘は、それを笑顔で受け取った。
荒んでいた頃の彼女は、もうどこにもいなかった。
心に強く抱いている夢が、彼女の心を真っ直ぐにしたのだ。
彼女の“スタンド”――『グロテスク・モダン・アート』が、“額縁”と一体化した姿に“成長”したのは、菜摘が面影町を訪れた当日のことだった……。

[続]
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プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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