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『幽霊屋敷に遊びに行こう!!』

藍沢祐樹と石神李依の両名が川内航平を追いかけていた頃、アルバイト先の喫茶店を出た七森菜摘は、顎が外れんばかりの大欠伸をしていた。
白のカジュアルシャツに紺色のベスト、またベストと同色のパンツに黒いハンチング帽という私服に着替えた彼女は、これから自宅に帰るところだった。
――けど、ヤッベーなぁ……。家賃の支払いは三日後だっていうのに、今月も払えそうにない……。まだ給料日は先だし、奨学金だって返さなきゃならないし……。あ~あ、大家に頭を下げて、どうにかするしかないかなぁ……。
ところが、菜摘は途中で不意に足を止めた。
耳をつんざくような大きな衝突音が、辺りに響き渡るのを聞いたのだ。
「……今なんか、すげーデカい音したけど。ふーん、あっちか……」
音の発生源は、菜摘が向かっていた自宅のアパートとは逆方向だった。
だが、それに興味を引かれた彼女は、迷わず引き返した。
明るい茶色のロングヘアーをなびかせて、足早に事故現場へ急ぐ。
菜摘が行ってみると、現場には既に大勢の野次馬が集まっており、彼らの話し声を聞く限り、どうやら交通事故が起こったらしい。
最後尾で精一杯の背伸びをして状況把握に努めていた菜摘だが、そこからではどうやっても詳しい様子が分からないと知るやいなや、躊躇うことなく人込みの中に突入していった。
「はいはいはいはいッ、ちょ~っと失礼!」
そう言いながら、事故現場を取り巻いている人込みを両手でかき分けて、強引に前へ出る。
欲しいものは欲しい。
したい事はしたい。
見たいものは見たい。
そうやって、自分の気持ちに嘘はつかないというのが、彼女のポリシーなのだ。
「あッ!?」
迷惑がられながらも、ようやく最前列に陣取った菜摘は、思わず声を上げてしまった。
事故を起こした青い大型トラックの上に、奇妙な姿の怪人が佇んでいるのを目撃したからだ。
それは、人間と機械が融合したようなフォルムを持つ異形の存在だった。頭を巡らせ、何かを捜すように周囲を見回している。
しかし、菜摘を除いた人々は、トラックの方に注目するばかりで、誰一人として怪人に目を向けていない。
その事から、怪人が見えているのは自分だけである事に、菜摘は気付いた。
自分に見えて、他人には見えない――つまり、この怪人の正体は一つしか考えられない。
――見つけたッ!“新手のスタンド”!!よしよし、逃げられる前に……。
即座に鞄からスケッチブックを取り出した菜摘は、ベストの胸ポケットに挿していたボールペンで、目の前にいる“スタンド”の姿を描き写し始めた。
画家・イラストレーター志望という謳い文句は伊達ではない。
美術大学に通っていることもあり、彼女は言葉に見合うだけの実力を持っている。
その証拠に、確かな観察眼で捉えられた“新手のスタンド”の全容は、速さと緻密さを兼ね備えた巧みな筆致によって、真っ白い紙の上に見る見る描かれていく。
誰かが呼んだ救急車とパトカーが到着したのは、菜摘がスケッチを終えるのと、ほぼ同時だった。
時間にして、僅か一分にも満たない早業だ。
しかし、菜摘がサイレンの音に気を取られている隙に、“新手のスタンド”も行方をくらませていた。
慌てて捜しても、もう姿は見えない。
菜摘は、思わず舌打ちした。
「……ま、いいか。とりあえず、今ある情報だけでも持っていこう。いくらで買ってくれっかな~」
鼻歌交じりに呟きながら、上機嫌で野次馬の群れから抜け出す。
行き先は、志賀利光が宿泊しているオリエンタル・ホテルだ。
“スタンド使い”の出現に伴って発生する、人知を超えた凶悪犯罪――それらを取り締まり、元凶である“矢の男”を捕らえる為に、警察庁から秘密裏に派遣された特命捜査官という肩書きが、菜摘に対して志賀が説明した素性だった。
その際には、警察手帳も――名前と同様に偽造だが――提示している。
生まれつきの“スタンド使い”同士という縁があったせいか、偶然に彼と出会った菜摘は、条件付きで協力を申し出た。
すなわち報酬である。
かくして菜摘は、スタンドに関する事件の情報提供および捜査協力と引き換えに、志賀から金銭を受け取るという契約を交わしていた。
言うまでもないが、これから志賀に会いに行き、ついさっき入手したばかりの新鮮な情報を買ってもらおうというつもりなのだ。
“本体”の情報ではないから値は下がるだろうが、売れないことはない。
それを頭金という扱いにして、とりあえず家賃の支払いを待ってもらおう。
そう考えた菜摘は、さっさと現場から立ち去ってしまった。
もし、彼女がもう少し待っていれば、“スタンド”の“本体”を確認することが出来た筈だ。
しかし、互いにとって幸か不幸か、この時に両者が出会うことは避けられたのである。
自分が目撃した“スタンド”の“本体”が、向こうから息を切らしながら走ってくる少年――さっきまで店にいた少年でもある――だということを、菜摘は知る由もなかった。

「――で、その事故の原因が多分コイツよ、コイツ。かなり凶悪な“スタンド”に間違いないわね」
「ふん……。それで、“本体”は見たのか」
オリエンタル・ホテルのラウンジで、コーヒーカップに口をつけていた志賀は、菜摘からスケッチブックを受け取って言った。
彼の向かいの席に腰を下ろした菜摘が、仕入れた情報を売り込んでいる。
内容を誇張して、出来る限り大袈裟に仕立て上げているものの、それを見抜いている志賀は、大して気に留めていないようだ。
「あー、ダメダメ。野次馬が集まっててさ。あれじゃあ分かんないよ。“砂漠に落とした米粒”捜すようなモンで。すみませ~ん。注文いいです?」
「参考にならんな。お前が持ってきた情報だけでは、この“スタンド”の“能力”どころか、近距離型か遠距離型か、それすら分からん」
「そんなこと言ったって仕方ないでしょ。あたしだって……。あ、ジンジャーエール下さい」
志賀に言われた菜摘は、呼びかけに応じて注文を取りに来たウエイターに、不満そうな表情で告げた。
「とにかく仕事は果たしたんだからさぁ……」
猫のように大きな瞳が、クルクルと動く。
両方の手の平を擦り合わせ、何か言いたそうな視線を送る菜摘の眼前で、銀色に光る小さなものが放物線を描いた。
反射的に、それを両手でキャッチする。
飛んできたのは、志賀の親指で弾かれた百円硬貨だった。
受け取った菜摘は、硬貨と志賀の顔を、不思議そうに見比べて尋ねた。
「何これ?」
「今回の報酬だ」
投げかけられた問いに対する志賀の答えは、あくまでも簡潔だった。
口の両端が引きつり、不自然な笑いを浮かべた菜摘は、なおも食い下がる。
「まったまた……。冗談でしょ?これっぽっちじゃあ、イマドキ幼稚園児だって喜ばねーって……」
「結果を出さない人間に出す金はない。それが、お前の働きに応じた正当な金額だ」
「げッ、マジなの!?今月ヤバいんだって。家賃だって二ヶ月滞納してるしさ。アパート追い出されちゃうよぉ~。頼むから、もうちょいイロ付けてよ。お願いッ!」
「――ダメだな。これは遊びじゃあないんだ」
再びコーヒーを飲んだ志賀は、菜摘の切実な懇願を一蹴する。
そこにウエイターが来て、菜摘が注文した品と伝票を置いて行った。
何を言っても無駄だと悟った菜摘は、グラスに添えられていたストローを無視すると、あからさまな膨れっ面でジンジャーエールを一気飲みした。
志賀は、更に続けて言う。
「“矢の男”に関する有力な情報が何一つない現状では、シラミ潰しに“スタンド使い”と接触して、そいつが知っていることを吐かせる以外に手がかりを得る手段はないんだ。この次は、もっとマシな情報を持ってこい」
生姜の辛味が効いた泡立つ琥珀色のジンジャーエールを、喉を鳴らして飲み干した菜摘は、それこそ叩きつけるような勢いで、空になったグラスをテーブルに置いた。
「あー、分かりました分かりましたよッ!持ってくりゃあいいんでしょ。持ってくりゃあ!」
そう言うと、隣の椅子に置いてあった鞄を引っ掴み、ラウンジを出てホテルの入口に向かう。
もちろん、飲み物の代金は払っていない。
大学の学費も自分で出している苦学生の彼女は、支払いを他人に押し付けることを決して忘れていなかった。
――こうなったら、さっきの“スタンド”をもう一回見つけ出して、その“本体”をとっ捕まえるしかない!あの嫌味ったらしい大家のババアにコビ売るなんて、やっぱりまっぴらよッ!
「うっし!」
一人で勢い込んだ菜摘は、再び街に出掛けて行った――。

[続]
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研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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