FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『ダーティー・フィンガーズを追い詰めろ――その4――』

「は……ははは……」
無意味な笑いが、思わず口から漏れる。
それを見つめる李依は、無表情のままで、クスリともしない。
なにより、目が据わっている。
その瞳から発せられる鋭い眼光は、川内の顔を真正面から捉えていた。
――ど、どうする!?どうするよ、俺!?
突然の“スタンド攻撃”に見舞われ、完全に虚を突かれた川内は、混乱する頭で必死に考えた。
しかし、この窮地を脱する案は、何も浮かんでこない。
確実に分かっているのは、今の自分が絶体絶命の状態に追い込まれているという事だけだ。
川内の背中を嫌な汗が伝う。
大した練習もしていないアマチュア選手が、プロボクサーの待つリングに引きずり出されたような気分だった。
川内と李依が対峙している路地の両側は、厚い壁に遮られている。
この狭い空間では、どこにも逃げ場がない。
接近戦に優れた近距離型の“スタンド”を持つ李依からすれば、圧倒的に有利な戦いが出来るフィールドなのだ。
直接的な攻撃手段に乏しい川内にとって、ここで戦う限り、どう考えても勝ち目はなかった。
「う……あ……うおお――ッ!!」
じりじりと後退した川内は、踵を返すやいなや、脇目も振らずに走り出した。
――なんだ、オイ!厄日か、今日は!あの姉ちゃんまで“能力”を持ってた事もオドロキだが、ここに逃げ込んだのが裏目に出ちまった……!あんなゴツイ奴をマトモに相手したら、今度こそ正面から食らっちまう!逃げるしかねぇ――ッ!!
しかし、逃亡する川内の進路に立ち塞がる者がいた。
『ボトム・オブ・ザ・トップ』を伴い、腕組みをして仁王立ちした藍沢祐樹だ。
「なにいッ!?」
――げえッ!?あれは、さっきのクソガキじゃあねえか!!うおお!逃げ道がねえ!完全に挟まれたッ!!
だが、それでも川内は走るのを止めなかった。
むしろ、ペースを上げて自分から加速したのである。
――ここで足を止めたら、間違いなくジ・エンドだ……!こうなりゃ、もう一度コイツを殴り倒して強行突破するッ!パワーが弱いってのは、さっき確認済みだからな……!後ろのおっかない姉ちゃんとガチのタイマン張るよりは、よっぽどマシだッ!!
意を決した川内の両手に、『ダーティー・フィンガーズ』が装着される。
走りながら右腕を大きく引いた川内は、全力疾走の勢いを殺さないまま、道を塞いでいる祐樹に猛然と殴りかかった。
「うおおッ!ブッ倒れて地面にキスしやがれ――ッ!!」
川内は、『ボトム・オブ・ザ・トップ』の“能力”を知らなかった。
そのために、“パワーが弱い”と思い込み、祐樹の“スタンド”を侮っていた。
だが、彼の予測が正しかったのは、少し前までの事だ。
数分前――川内が休憩している間に、祐樹は『ボトム・オブ・ザ・トップ』に追いついた。
自分の“スタンド”の現在位置は、感覚的に理解できる。
それを目印にして、『ボトム・オブ・ザ・トップ』を回収した祐樹は、李依と川内が睨み合いをしている路地に到着した後で、再び“能力”を使用した。
正確に言えば、射程距離を犠牲にして『ボトム・オブ・ザ・トップ』のパワーを強化したのだ。
よって、川内の突撃は失敗に終わった。
祐樹の前に出た『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、その位置から微動だにせず、襲い来る拳を片手で難なく受け止めてしまった。
「え?」
川内は、自分の目を疑った。
全力で放ったパンチが、いとも簡単に防がれてしまったのだ。
離れようとしても、凄まじい握力で捕まえられた腕は、万力で固定されたかのように全く動かせなかった。
「あいにく――」
祐樹の言葉と共に、川内の拳を掴んでいる『ボトム・オブ・ザ・トップ』が、空いている方の腕を構えた。
「“地面さん”は、あんたの方が好みだってさ!」
みなぎる力をたぎらせた必殺のストレートパンチ――その一撃が、呆気にとられている川内の顔面めがけて打ち込まれる。
「おぶあッ!?」
間抜けな悲鳴を上げた川内は、鼻血を散らしながら吹き飛び、地面に激しく叩きつけられた。
「これで、さっき殴られた分は返したぞ。次は、そっちが返す番だ。俺の大事な財布をな。早くしないと、もう一発ブチ込むぞ」
路地の中央まで押し戻された川内は、うつ伏せに倒れた状態から、地面に手を突いて身体を起こそうとしている。
その前後から、各々の“スタンド”を引き連れた祐樹と李依が近付いていく。
二人は、途中で顔を見合わせ、互いに目で合図した。
祐樹が立案して共同で実行に移した作戦は、見事に成功したのだ。
まず、祐樹が川内を追跡して、追い込めるような場所まで誘導する。
李依は、祐樹と連絡を取り合いながら、鍛えられた足腰と体力を生かして先回りしていた。
途中で川内を見失ったのは想定外だったが、追われる人間が逃げ込むような所は、李依には経験で分かった。
あとは、李依が“スタンド使い”だと気付かれていない事を利用した先制攻撃を仕掛け、川内が逃げ出したところで、反対側から祐樹が現れて挟み撃ちにしたのである。
「ぐ……いてえぞ……!血が出てるじゃあねえか……!ク……クソが……!ブッ殺してや――」
顔を上げた川内は、最後まで言い切らずに黙り込んでしまった。
彼の頭上から、二人分の冷たい視線が注がれていたからだ。
「“誰が誰をブッ殺す”んだって?よく聞こえなかったな」
『ボトム・オブ・ザ・トップ』を背後に立たせた祐樹は、川内を見下ろして言い放った。
「え……いや……。あははは……冗談だよ、冗談。そんな物騒な事、本気で思ってるワケないじゃないッスか~!ヤだな~!」
退路を断たれた川内は、精一杯の愛想笑いを張り付かせて体裁を取り繕った。
その様子を見て、祐樹は李依に話しかけた。
「――こいつ、どうします?これっぽっちも反省してるように見えないから、多分また同じような事しますよ。ついでに、石神さんも一発殴っときますか?そうしたら、少しは反省するかもしれませんよ」
祐樹の台詞を聞いた川内は、『ザ・プレイグス』に殴られるのを回避しようと、滔々たる勢いで弁舌を振るい始めた。
「こ、こんな事すんのは初めてなんですよォ~。バイトはクビになるわ女にはフられるわでムシャクシャしてた時に、この“能力”を手に入れまして……。魔が差したっていうんですかねェ~。恐れ多くも人様の財布に手を伸ばしてしまいまして、なんとお詫びすればいいやら……。しかも、そちらの女性が、あまりにも美人だったもので、誘蛾灯に誘われる蛾のように、ついついフラフラと……。本当に、本当にすみませんでしたッ!!」
いかにも悲痛な表情を浮かべた川内が、地面に頭を擦り付けるようにして土下座する。
それまで沈黙を守っていた李依は、ここで祐樹が予想していなかった言葉を口にした。
「……分かったわ。それなら、あなたに“最後のチャンス”をあげる。藍沢君から盗った財布を返して、二度とこんな事はしないと約束しなさい。そうするなら、私も藍沢君も、これ以上あなたに危害は加えない。この場は見逃してあげるわ」
これに驚いた祐樹は、聞き返さずにはいられなかった。
「え?石神さん、それマジで言ってるんですか?」
「藍沢君もいいわね?」
祐樹に問う李依の顔は真剣だ。
それを見る限り、彼女は、あくまで本気のようだった。
「俺は……財布さえ戻ってくるなら、別に構わないですけど。さっきの一発で借りは返しましたし」
祐樹は、今一つ釈然としなかったが、当人である李依が言っている以上は、その判断に従う事にした。
「はいッ!!その通りにします!もう二度と、金輪際このような事は致しません!ありがとうございますッ!!」
ひれ伏している川内は、再び深々と頭を下げた。
しかし――川内航平は、非常に諦めの悪い男だった。
――ハッ、アホか。土下座で済むんならチョロいもんだ。しかし、この姉ちゃんも随分お人好しだな。改心する気なんざ、さらさらねーよ。ま、金と女に縁がなくてイラついてたってのはマジだけどよ。超ゴキゲンな“能力”を手に入れた以上は、使わなきゃ損だろが。それによ……こんな風に舐められたまんまじゃあ、ムカついちまってスッキリ終われねーんだよッ!誰だって、最後は笑って終わりてーもんなあ~!!
口では謝りながらも、川内は心の中で悪態をついた。
また、スリで食っている彼の身体には、降りかかる危機から脱出する為に、常に頭を働かせるという癖が染み付いていた。
“スタンド”を身に付ける以前に、ドジを踏んで何度か警官に捕まりそうになった時も、そうして切り抜けてきたのだ。
その賜物か、めまぐるしく変動する思考の濁流の中から、一つの考えが天啓の如く閃いた。
――そうだ……。まだ“手”が残ってるじゃねえか……!文字通りの“手”がよぉ……!やった事はないが、試してみる価値はある!いや、これに賭けるしかねえ!!
「いやァ~、ほんッと~にィ~――」
勢い良く面を上げた川内は、祐樹と李依の両名に、媚びるような視線を投げかけた。
いよいよ“最後の賭け”に出る時だ。
「すんませんッしたァ~」
三度目の土下座――しかし、それは先程までと同じく謝罪の為などではなかった。
姿勢を低くする事で、“自らが仕掛けた前後からの攻撃”を避ける為だ。
――初めてだったから、ちと心配だったが、上手くいったようだぜ……!たった今ッ!『ダーティー・フィンガーズ』で、こいつらの“背後霊ども”の“手”を“腕”ごと乗っ取った!!その油断しきったマヌケ面をブッ飛ばしてやるッ!同士討ちになって、くたばりやがれッ!!
「分かった分かった。じゃあ、俺の財布を返し――だッ!?」
「うッ……!」
祐樹と李依の身体は、突如として衝撃を受けた。
信じられない事が起こったのだ。
川内を挟んでいた『ボトム・オブ・ザ・トップ』と『ザ・プレイグス』が、“本体”である二人の意思を無視して動いたかと思うと、クロスカウンターの形で、互いに激しく殴り合ったのである。
『ボトム・オブ・ザ・トップ』のパンチは『ザ・プレイグス』の胸部に、『ザ・プレイグス』のパンチは『ボトム・オブ・ザ・トップ』の頭部に、それぞれ命中していた。
人体で言えば、どちらも重要な部分だ。
二人は、“スタンド”のダメージに伴うフィードバックに襲われたが、李依の取った咄嗟の行動が、彼女自身と祐樹を救った。
かつてボクサーだった李依は、目の前の相手に攻撃された場合、頭で考えるよりも先に身体が動くという癖が付いていた。
だからこそ、彼女の方だけは、不意の打撃を食らう寸前で、反射的に身を引く事が出来たのだ。
この時、李依に付随して『ザ・プレイグス』も同時に後退したため、『ボトム・オブ・ザ・トップ』との距離は僅かではあるが遠くなった。
そのために当たり方が浅くなり、方向自体は直撃コースだったにも関わらず、二人が受けたダメージは、無抵抗で食らった場合と比べて少なく済んだ。
しかし、『ダーティー・フィンガーズ』と川内の策略によって与えられたダメージは、決して小さいものではなかった。
なんとか持ちこたえた李依だったが、打たれた胸を押さえ、痛みに顔をしかめて、その場に片膝を突いている。
また、頭を強打されたせいか、ふらついて立っていられなくなった祐樹は、まるで腰が抜けたかのように、後ろ向きに倒れてしまった。
立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。
「ヘヘヘ……。クックックッ……」
勝利を確信した川内は、口を歪めて笑い出した。
憎たらしい表情で、祐樹と李依を見下ろしている。
もはや、形勢は完全に逆転しているように思えた。
「プッ……ギャハハハハ――ッ!!ざまあみさらせ~ッ!!」
とうとう噴き出した川内は、溜まった鬱憤を晴らすように、腹を抱えて笑い続けた。
「こいつッ!!」
「おっと」
頭に血が上った祐樹は、すかさず『ボトム・オブ・トップ』を前方に放ったが、その反撃を読んでいた川内は、軽く身をかわした。
避けられた原因は、それだけではない。
飛びかかった『ボトム・オブ・ザ・トップ』の動きが、明らかに鈍っていた。
“スタンド”は、それを生み出し、行動させる“本体”と繋がりを持っている。
したがって、“本体”が弱れば、“スタンド”も力を奪われる。
未だにダメージが残っている祐樹は、“スタンド”の操作にも精彩を欠いていた。
――クラクラする……。ダメだ、ぜんっぜん立てない……!こんな時に、なんてザマだ……!!
その様子を見た川内は、あからさまに嘲笑った。
「あっらら~、残念。もうちょっとで届いたのになあ~。惜しかったなあ~?ホラ、悔しかったら殴ってみろよ。どうした?俺はココだぜ、ココ。来てみろよ、腰抜け野郎」
「『ボトム・オブ・ザ・トップ』ッ!!」
川内の挑発に乗った祐樹は、なおも“スタンド”に攻撃させたが、やはり当てられなかった。
それを鼻で笑った川内は、祐樹と李依の二人に対して油断なく目を光らせながら、足早に路地裏まで移動した。
そのまま逃げれば良いものを、調子付いたらしく、壁から半身を出した状態で捨て台詞を吐き始める。
「ハッ。『ボトム・オブ・ザ・トップ』っつーより、テメーは単なる“ボトム”だな。“トップ”なんざ、どこ探してもありゃしねー。文字通り“底辺”に這い蹲ってるのがお似合いの負け犬ってこった。じゃあな、お二人さん。あっあ~、盗んだ金は使っといてやるから、ありがたく思えよ~?こんなハシタ金じゃあ、一度か二度メシ食ったら終わりが精々だろーがよ。そっちの姉ちゃんも、いいケツしてたぜ。今度はオッパイ触らしてくれよな」
――けッけッ。最高だな。やっぱよォ~、負けた奴を見下すってのは気分がいいねェ~!マジざまみろって感じでよ、“新しいパンツ穿いた元旦の早朝”みてーにスカッとしたぜ。
川内は、すっかり上機嫌だ。
得意になって、更に付け加える。
「“一つ、いい事を教えてやるよ。勝負ってのはなぁ、最後まで諦めない奴が勝つんだよ。いい勉強になっただろ?”あばよ、ガキと姉ちゃん」
そう言って、ようやく川内は立ち去った。
路地に残された祐樹は、込み上げる怒りと悔しさで、きつく唇を噛んだ。
それ以上に、去っていく川内を見送る事しか出来なかった自分の不甲斐なさに、はらわたが煮え返る程に腹が立った。
――畜生……!!情けないし……カッコ悪いし……最低だ……。こんなんじゃ、ヒーローみたいな強い男になんか、なれる訳ない……!
「藍沢君……ごめんね、私のせいで。でも、“大丈夫”よ。心配しないで」
いつの間にか立ち上がっていた李依は、祐樹に手を差し伸べて立たせながら、優しく言葉をかけた。
李依の傍らに出現した『ザ・プレイグス』が、路地裏の方向を指さしている。
「――決して逃がさないし、“あのクズ野郎”は、どこにも行く事は出来ない。既に『ザ・プレイグス』は、あいつの足に“触れている”……!!」

[続]
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
現在時刻
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。