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『ダーティー・フィンガーズを追い詰めろ――その3――』

『ボトム・オブ・ザ・トップ』(基本性能を変化させる)&『ザ・プレイグス』(殴ったものを“砂”に変える)
                              VS
                 『ダーティー・フィンガーズ』(射程内の“手”を乗っ取る)
                        
一気に大通りを駆け抜けた川内は、手前に迫る角を右折して、商店街の入り口に差し掛かった。
威勢のいい店員や、主婦を中心とした買い物客の声が、アーケードの天井に反響している。
「ハッ、無駄だぜ。“複雑骨折した亀”みてえにノロマなテメーの足じゃあ、俺を捕まえるなんざ逆立ちしたって出来やしねーんだよッ!」
高校時代は陸上部に所属していた川内は、逃げ足には自信があった。
単純な速さに加えて、スポーツ選手さながらの軽快なフットワークで、雑踏の隙間を上手くすり抜けていく。
その、すぐ後方――井戸端会議に夢中になっている主婦達の頭上を飛び越える影があった。
川内を“追跡”している『ボトム・オブ・ザ・トップ』である。
“本体”の祐樹は、その更に三十メートルほど後ろで、息を切らしながら走っている。
帰宅部の悲しさか、日頃の運動不足が祟った体力不足のせいで、なんとかついて行っているという状態だ。
額に玉のような汗を滲ませ、肩を上下させて苦しそうに呼吸している姿からは、見るからに限界が近いことが窺えた。
「はぁ……はぁ……」
――くそッ!あいつが、あんなに速く走れるのは予想外だった……!だが、“追跡”そのものは何の問題もない……!
『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、“本体”の意思によって、その性能を自由にコントロールする“能力”を持っていた。
ボディーの各部に組み込まれた三つの“メーター”が、それぞれパワー、スピード、射程距離を表している。
“メーター”の中心を指している“針”が左右に振れるのが、“能力”の使用を意味するサインだ。
そして、他の“スタンド”がそうであるように、当然ながら弱点もある。
三つの内の一つ――たとえば、仮にパワーを向上させた場合、それと引き換えに、スピードか射程距離のどちらかは低下してしまう。
現在の『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、パワーを犠牲にする代わりに、射程距離を伸ばしている状態だ。
そのため、本来の射程距離である十メートルを遥かに越えていても、こうして活動する事が可能になっている。
近距離型であるにも関わらず、基本性能を変化させる事で、状況に応じて遠距離型としても使える――この点が、“優柔不断”な部分が発現した『ボトム・オブ・ザ・トップ』の大きな強みである。
二度の戦いを経た祐樹は、そうした利点を理解し、今や完全に“スタンド”を使いこなしていた。
祐樹の命令を受けた『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、決して離れようとせず、川内に対するマークを続けている。
しかし、“本体”の祐樹自身と川内の距離は、縮まるどころか徐々に開いていく。
その影響で、『ボトム・オブ・ザ・トップ』のパワーは、かなりの速度で低下してしまっていた。
――俺から離れてるせいで、だいぶパワーが落ちてるな……。このザマじゃあ、幼稚園児と腕相撲して勝てるかどうかも怪しいもんだ。直接あいつを取り押さえるのは無理としても、あとは“作戦”が成功するかどうか……。
遠くに見える川内の背中を目で追いながら走っていた祐樹は、その場で立ち止まった。
激しい運動によって荒くなった呼吸を整え、気を落ち着ける。
もちろん、諦めた訳ではない。
『ボトム・オブ・ザ・トップ』の“追跡”は続行している。
“追跡”の開始と同時に、李依と“ある作戦”を立てていた祐樹は、この後に起こるであろう“次の段階”に備えて、体力の回復を優先させる事にしたのだ。
一方、先頭を走っていた川内も、祐樹が追いかけてこなくなった事に気付いていた。
「お?」
――あいつ、いなくなってやがるぜ。どうやら、ガキの方は撒いたようだな。残るは、コイツか……。いつまでついて来る気だ?いい加減うざってえな……!
忌々しそうに舌打ちした川内は、ちらりと振り向いた。
“スタンド”であるために疲れを知らない『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、相変わらず“追跡”を止める気配がない。
しかし、攻撃するような素振りも見せていない。
ただ、一定の距離を保って、追いかけてくるだけだ。
その様子を観察した川内は、食らいついてくる『ボトム・オブ・ザ・トップ』を自分から引き離す為に、走りながら頭を働かせた。
――見た感じ、ぴったりマークしてやがる……。スピードは、俺と同じくらいだ。特に速くもなく遅くもねえ。だが、一向に俺を捕まえようとしないってこたぁ、大したパワーは持っちゃいねえようだな。それなら、いくらでも振り切る“手”はあるぜ!
商店街を抜けた川内は、その数メートル先にあるコンビニを通過した時点でスパートをかけ、曲がり角の向こうに姿を消した。
『ボトム・オブ・ザ・トップ』も、すぐに後を追う。
スモークブラックのマスクの下に隠された双眸が煌めいた。
『少なくとも面影町内なら、どこへ行こうが逃がさないぞ。この落とし前をキッチリつけなきゃいけないからな』
正面を見据えた『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、素早く角を曲がった。
その瞬間――歩道を乗り越えて前方から突っ込んできた大型トラックの青い車体が、『ボトム・オブ・ザ・トップ』の視界全体に溢れんばかりの勢いで飛び込んできた。
運転していた男は、既にブレーキペダルを踏み込んでいたが、完全に停車するまでの制動距離が足りなかった。
タイヤと路面の間から、甲高い摩擦音が尾を引くように鳴り響く。
『うわッ!?』
『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、祐樹と視聴覚を共有している。
あまりの事に動揺した祐樹は、一時的に“スタンド”の法則を忘れてしまった。
たとえ、十トン級のトラックがブチ当たろうが、巨大なロードローラーに押し潰されようが、それで“スタンド”が傷を負う事はないのだ。
だが、つい「轢き殺される」と思った祐樹は、不覚にも驚き、それによって集中力を欠いてしまった。
その結果、“本体”からの操作が途切れた『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、カカシ同然の棒立ち状態に陥った。
先を行く川内は、この隙に距離を稼いでいる。
川内と『ボトム・オブ・ザ・トップ』――二者の差が広がっていく。
自分の頬を張り、深呼吸した祐樹は、なんとか冷静さを取り戻した。
路肩に立つ電柱に衝突して止まっているトラックの運転席を、『ボトム・オブ・ザ・トップ』を通して覗き込む。
ヒビ割れたフロントガラスを隔てて、ハンドルに突っ伏しているドライバーの姿が見えた。
微かに動いている。
気を失っているが、どうやら生きているようだった。
――石神さんの話じゃ、あいつの“能力”は“手”を操る事らしい……。ちょっと舐めてたな……。
『しかし、いくらなんでも“これ”はないだろ……。無茶苦茶にも程がある……!ヘタすりゃ人身事故だぞ!』
トラックの屋根に乗った『ボトム・オブ・ザ・トップ』が、周囲を見渡して川内の行方を捜す。
事故の音を聞いた野次馬が、近くに集まってきていたが、その中に肝心の男はいない。
どうやら見失ってしまったらしい――。

ビルの外壁に左右を挟まれた狭い路地の中――川内は、そこに身を潜めていた。
ラーメン屋の店先から走り続け、流石に息が上がったらしい。
足下に置かれていたビールケースをひっくり返して腰掛けると、がっくりと力なくうなだれた。
「ったくよぉ……。てこずらせやがって……あのクソうぜえガキが……」
荒い息の下で、川内は絞り出すように呟いた。
ニット帽を脱ぎ、それで顔を扇いでも、まだ汗が引かない。
億劫そうにジャケットを脱ぎ、上半身はティーシャツ一枚になる。
しばらく新鮮な外気に当たっていると、ようやく身体が冷えて涼しくなってきた。
「――だが、俺以外にも“能力”を持つヤツがいるって事は……。こりゃあ、今後は注意しなきゃいけねえな。また追いかけられたら、たまったもんじゃねえ」
だが、今日は助かった。
もう必死で逃げる必要はないだろう。
先程の“策”が成功した事によって、『ボトム・オブ・ザ・トップ』を振り切る事が出来たのだ。
「ちょうど“運転手付のトラック”が走ってて、ラッキーだったな。お陰で、あのガキをビビらせてやれたしよ。ツイてるぜ。やっぱ俺の人生はバラ色ってかぁ~?」
あの事故の原因は、川内だった。
『ダーティー・フィンガーズ』で、ドライバーの“手”を乗っ取り、急ハンドルを切らせて『ボトム・オブ・ザ・トップ』に突っ込ませたのである。
それが“スタンド”に対するダメージにならない事は、川内自身も知っていた。
だが、“本体”の祐樹を脅かして、“追跡”を妨害する事は十分に可能だと踏んでいたのだ。
かくして、川内の読みは的中した。
しかし、一カ所に留まっていると、また発見される恐れもある。
なにしろ、相当しつこく追ってきていたのだ。
今も、まだ近くをうろついているかもしれない。
それを危惧した川内は、さっさと立ち去る事にした。
脱いだジャケットを肩に掛け、帽子を小さく丸めてポケットに突っ込むと、用心深く背後を確認する。
それを済ませた川内は、表通りを避けた逃走経路――路地裏を通り抜ける道を選び、奥側に向かって歩き出す。
事故現場の方に人が集中しているらしく、辺りは静まり返っており、自分以外の気配は感じられない。
だが、路地の中程まで来た時、川内は歩みを止めて耳を澄ませた。
前方――つまり路地裏から足音が聞こえたのだ。
――誰だ?誰が来る?
川内は警戒したが、足音と共に現れた人影は、藍沢祐樹ではなく、『ボトム・オブ・ザ・トップ』でもなかった。
逆光で顔が見えないが、浮かび上がるシルエットから、“女”だと分かる。
かなり背の高い“女”だ。
出てきた人物が、自分を追ってきた相手ではないと知り、警戒心の薄れた川内は、そのまま進み始めた。
一歩、二歩――足を踏み出す度に、路地の終点が近付いていく。
それは、向こうから歩いてくる“女”との距離が詰められるという事でもある。
まもなく“女”の顔が見えてきた。
見覚えがある。
――こいつは……さっきの姉ちゃんじゃねえか……。こんな所に、何の用があるんだ?ただでさえ道幅も狭いってのによ……。
川内は、さらに進もうとしていたが、思い直して足を止めた。
その間も“女”は歩み寄ってくる。
頭の中で、けたたましい警報が鳴りだした。
今更ながら、“この女”の存在が、はっきりした疑問となって浮上したのだ。
それは、ただの疑問ではなく、危機感を伴った疑惑だった。
――おい、待てよ……。こいつは“おかしい”ぞ……!
川内は、思わず後ずさる。
彼が抱いた疑惑は、確信に変わりつつあった。
――狭いだけで何もない場所に、“女”が一人きりでいるってのも変だが……。しかも、“その女”が……さっき俺がケツ触った“女”で、この短時間で偶然に再会する確率なんて、そうそうあるもんじゃねえ……!こんな場所なら、尚更ありえねえぞ!何か分からんが、こいつは“ヤバい”ッ!!
二人の間隔は、残すところ数メートルしかない。
言いしれない寒気を感じた川内は、自分が立っていた場所から飛び退いた。
“女”――石神李依が、自身の“スタンド”である『ザ・プレイグス』を発現させたのは、ほぼ同時だった。
間髪を容れず、重く強烈なダイナマイトパンチが、ヘビー級ボクサーを思わせる『ザ・プレイグス』の豪腕から繰り出される。
「うおッ!?」
突然の驚異に晒された川内は、驚きと恐怖で、顔を醜く引きつらせて叫んだ。
だが、直前に退いていた事が幸いした。
目の前の障害物を薙ぎ払うようにして放たれた左フックの一撃は、川内の鼻先をギリギリで掠めた。
そのまま吸い込まれるように、ビルの外壁に叩き込まれる。
――あ……あっぶねえ……!もうちょい下がるのが遅れてたら、モロに食らっちまうところだったぜ……!
壁面に走った亀裂と、ボロボロと剥がれ落ちるコンクリートの破片を見て、川内はゾッとした。
「――お疲れ様。“待ってた”わよ」
『ザ・プレイグス』を従えた李依が、川内に声を掛けた。
しかし、それは労いの言葉ではない。
むしろ、まったく“反対”の意味が込められていたのである――。

[続]
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プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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