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『ダーティー・フィンガーズを追い詰めろ――その2――』

「――どうしたの。お腹空いた?」
「それもあるんですけど」
大通りに面した飲食店群を眺めていた祐樹は、微笑む李依に笑い返した。
時間は昼過ぎ――書き入れ時だ。
どこの店も店内は満席に近く、繁盛しているようだった。
「この町に、今どれくらいの“スタンド使い”がいると思います?」
味が良いと評判のラーメン屋の前で列を作っている人々を一瞥して、祐樹は喫茶店で言いそびれてしまった疑問を持ち出した。
祐樹が知っている“スタンド使い”は、今のところ自分を含めて三人である。
李依と多田羅、そして祐樹自身だ。
李依に聞いた話によると、例の“矢の男”は、厳重に警戒されている筈の刑務所内に苦もなく侵入したらしい。
そんな事が出来るとすれば、やはり“矢の男”も“スタンド使い”である可能性が高い。
だから、“矢の男”を加えると四人になる。
しかし、現在の面影町に存在する“スタンド使い”の数は、そんな程度ではないだろう。
おそらくは、相当な数に上っていると思われた。
尋ねられた李依は、少し考えてから答えた。
「多分だけど、かなりの人数じゃないかしら……。藍沢君が射抜かれた時点から考えると、少なくとも二ヶ月くらい前から増え始めてる事になるし……」
“矢”に射抜かれたとしても、必ず“スタンド”が発現する訳ではない。
“スタンド”の才能を持つ者のみが“スタンド使い”となり、そうでない者は命を絶たれる。
この恐ろしい事実を、まだ祐樹は知らなかった。
李依は知っていたが、彼には話していなかった。
何故なら危険だからだ。
祐樹が、人を助ける為に“スタンド”を使う事を決めると同時に、李依も大きな“決意”を固めていた。
出獄して、再び帰ってきた面影町を守る為に、町に潜伏していると思われる“矢の男”を止めるという“決意”だ。
一人でやるには、骨が折れる仕事だろう。
それでも他の人間を巻き込む訳にはいかない。
「“矢の男”を止める為に協力して欲しいの」――そう言うのは簡単だし、祐樹も承諾してくれるかもしれない。
しかし、“矢の男”は得体が知れない。
スタンド使いを増やす為に人間を殺す事を、毛先ほども気にかけていないような男なのだ。
そんな人物に関われば、非常な危険が伴うのは間違いない。
だから、“矢の男”を追いかけて止めるのは、自分だけでいい。
そう考えた李依は、“矢の男”に関する情報を、単独で調べようとしていた。
李依は思う。
子供の頃に憧れたヒーローのような強い男になりたいという祐樹の夢を聞いた時、その子供っぽい目標を本気で応援したいと思った。
笑ったりする筈がない。
昔の李依も、プロボクサーを目指すと言った時は一笑に付された経験がある。
それ以来、人の夢を笑った事は一度もない。
また、“生き甲斐”の見つからない状態から光明を見出した祐樹を応援するというのは、“生き甲斐”を失った自分自身を立ち直らせるという事でもある。
十歳も年下の彼が、こうして悩んで頑張ろうとしているんだから、私だって、まだまだ頑張れる――そうやって、自分を奮い立たせるのだ。
だから、初めて知り合えた“スタンド使い”として、また一人の友人として、彼が助力を頼んだ時は、喜んで手を貸すつもりだ。
しかし、それとは別に、なんとしても“矢の男”を止めたい。
この町には、かつてのトレーナーや仲間達も住んでいる。
彼らに対する、せめてもの償いと、もう一度“この町で暮らす資格”を得る為に、必ず“矢の男”を追い詰めなければならない。
李依は、そう思っていた。

「いつバッタリ出会うかも分からないですし、ああいう行列の中に混ざってたって、全然おかしくないですよ」
李依の思いを知ってか知らずか、立ち止まった祐樹は、先程のラーメン屋を指差して言った。
彼の言葉は、なおも続く。
「昼メシ時で混雑してますからね。あれだけ人がいたら、“スタンド使い”の一人や二人は入店してるんじゃないですか?あ、もしかしたら何か事件が起きるかもしれませんよ。売り上げ強盗とか」
その店に、やたらと拘る祐樹の言動に、李依は意図的なものを感じたが、敢えて黙っていた。
しかし、自然と頬が緩むのは抑えられなかった。
「ほら。団体客が出ようとしてるから、今なら二人分の席も取れそうですよ」
祐樹が、ガラス越しに見た店内の様子を告げる。
そこで李依は、ようやく口を開いた。
「藍沢君」
「はい?」
「“何ラーメン”が食べたいの?」
振り返った祐樹に、李依は核心を突く言葉を放つ。
一瞬、それを聞いた祐樹が固まった。
「……“キムチ豚骨チャーシューメンねぎ多め”……です……」
小さな声で、祐樹が言う。
祐樹の思惑は、李依の予想通りだった。
李依は思わずクスリと笑った。
「じゃ、入りましょうか」
李依は納得し、店の方に歩き出した。
すぐに祐樹が後を追う。
「トッピングで玉子を追加して……。ラーメンと餃子で千円ちょっとかな?」
店の前に並んだ後で、所持金を確認しようとポケットを探った祐樹は、ある筈のものがない事に気が付いた。
足下に視線を向けるが、落ちているのは、午前中に配られていたパチンコ屋の宣伝チラシだけだ。
「え?え?おい、ふざけんなよ……。マジでシャレになってないぞ……!」
血相を変えた祐樹を見て、李依は何事かが起こったと悟った。
何か出来る事はないかと、祐樹の傍に歩み寄る。
「何か落としたの?」
「財布ですよ!俺の全財産入りの財布です!さっきまであったんですけど、どこに行きやがったんだ!?」
顔を上げた祐樹は、それだけを言うと、再び捜索に専念する。
通常は、金銭を落とした場合、まず手元には戻らないそうだ。
しかし、祐樹としては、それを認める訳にはいかなかった。
全財産を失うという最悪の結末を否定しようと、彼の頭は猛スピードで回転し、考えられる限りの救いのある可能性を打ち出した。
――俺には進むべき三つの道がある……!“その一、捜してる内に見つかる”、“その二、親切な人が拾って交番に届けてくれる”、“その三、なくしたと思ったけど実は見落としてただけだった”!
祐樹は、再び入念にポケットを探ってみた。
その結果、三つ目の選択肢が、これで消えた。
――俺がマルを付けたいのは一番か二番だけど、期待は出来ない……。そうなると……結末は一つしかない……!
“その四、見つからない。現実は非情である”――最悪を意味する四つ目の可能性が、祐樹の心に重くのしかかった。
――ダメだ!それだけは……。それだけは回避しなくては……!絶対に見つけるという意識を持って、心の弱さを振り切らなくては……!
「捜そう!とにかく捜す!“目的に向かおうとする意志”さえあれば、いつかは見つけられるッ!石神さん、ちょっと待ってて下さい!すぐ見つけますからッ!」

祐樹が目を閉じて集中力を高めようとしていた時、李依の眉がピクリと動いた。
彼女の腰の下――細身のジーンズに包まれた尻の部分に、何かが触れた感触があったのだ。
誰か知らないが、どうやら、後ろに並んでいた男の手が当たったようだった。
もし、それで終わったなら、単なる事故という事もあるだろう。
李依も、「この人、痴漢ですッ!」と警察に突き出したりする気はなかった。
しかし、これは明らかに故意だった。
その相手は、まず手の甲で触れて、李依の反応を確かめていたらしい。
李依が何も言わないのを確認したかのように、その相手は厚かましくも、今度は手の平の側で、彼女の尻を露骨に撫で始めた。
もう間違いない。
そいつは疑う余地のない、百パーセントの“痴漢野郎”だった。
カッとなった李依は、即座に男の手を掴むと、容赦のない力で、たちまち捻じ上げてしまった。
「――ちょっと、あなた。今、“この手”で何やった?」
その痛みに顔を歪めて悲鳴を上げている男は、がっしりした体躯の持ち主だ。
髪を赤く染めて、上下の黒い服――それは改造された学生服だったが、李依は気付かなかった――を着ている。
だが、そんな事は、どうでもよかった。
対する李依は、有無を言わせない迫力を纏い、男の腕を握っている右手に、更に力を込めた。
「この“フザケた手”でッ!私の身体に気安く触ってたわよねえ~?」
そこで駄目押しとばかりに、もう一段階、力を強くする。
男は、その拘束から逃れようと足掻いているが、逃げられはしない。
「図体デカい癖して、こっちが大人しくしてりゃ、いい気になってんじゃあねーわよッ!抵抗しないとでも思った?コソコソして情けなくないの?なんなのよ?“この手”は?どういうつもりなの?ああ?」
人間の目を上下に取り巻く眼輪筋をピクピクと震わせながら、李依は荒い口調で畳み掛けた。
言うまでもなく、彼女は“キレて”いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺にも、なにがなんだか分からな――」
「はあ?この期に及んで、今更スッとぼけるつもり?痴漢を働いた事もだけど、そうやってヘタクソな言い訳しようって腐った態度もムカつくわッ!」
李依の言葉と同時に、男の腕が軋む。
「折れる折れる!折れちまう!いや、マジなんだよ!信じてもらえないだろうが、俺の“手”が勝手に動いたんだよッ!」
男にとって幸運にも、それを聞いた李依は、腕を握る力を緩めた。
それというのも、ついさっき“ある話し声”を小耳に挟んでいたからだ。
ラーメン屋の前で祐樹がコントを演じていた時、少し離れた所に、高校生らしい学生服姿の少年が立っていた。
切れ長の目を持つ賢そうな顔立ちをしていた。
どうやら、誰かを待っているらしい。
そこに一人の少女が現れた。
私立面影中学校の制服を着て、長い茶髪を背中まで垂らしたコギャル風の少女だ。
彼らの取り合わせは、いかにもチグハグな印象を与えるものだったが、二人は親しい間柄のようだった。
その証拠に、丈を膝上まで短くしたスカートをはためかせて走ってきた少女は、少年と合流して話し始めたのだ。
李依が聞いた彼らの会話は、以下のような内容だった。
「何かあったのか?」
「なんかなんかー、ヤンキーの財布パクったとかで、ハゲたオヤジがボコられてんの。“手”が勝手に動いたとか、ワケわかんねー言い訳しててさー。人は見かけによらないって、あーいうのでしょ?」
「ま、お前は例外だな」
「なんで?」
「中身も見た目も軽いだろ。ついでにココもな。見かけそのものってヤツだ」
少年に額をつつかれた少女は、何やら言い返していたが、李依との距離が開いていたため、もう聞き取れなかった。
男の弁解を聞いた時、この二人の会話が、李依の脳裏に蘇ったのである。
それと共に、先程の祐樹の言葉が思い出される。
これだけ人がいたら、“スタンド使い”の一人や二人は、いても当然――確かに、そうだ。
もしかすると、この男は本当の事を言っているのではないだろうか?
まさかとは思うが、可能性はゼロではない。
“手”が勝手に動いたという部分で、証言も一致している。
そして、二つの事件が同じ“スタンド使い”の仕業だとするなら、この胸クソ悪い“スタンド”の“本体”が、どこかにいる筈だ。
“本体”と視聴覚を共有していないのであれば、こちらを見ながら“スタンド”を操作しているに違いない。
男を解放した李依は、辺りを見渡す。

「へへっ。あの姉ちゃん、いいケツしてやがったなぁ~。キュッと引き締まって、プリッと上がっててよぉ。尻フェチの俺にゃ、たまんねえなぁ~」
李依が捜していた犯人――川内航平は、にやけた表情でラーメン屋の前から立ち去ろうとしていた。
その両手は、“黒い手袋”で覆われているが、これは普通の人間には見えない。
何故なら、これが彼の“スタンド”だからだ
数日前に“矢”で射抜かれた川内は、『ダーティー・フィンガーズ』と名付けた“スタンド”を操る“スタンド使い”となったのである。
『ダーティー・フィンガーズ』は、射程内の“手”を乗っ取り、操る“能力”を持つ。
触覚を含めた感覚も操る対象と共有するため、まるで自分の“手”のように違和感なく動かせるのだ。
川内は、元々スリ師として活動していたが、“能力”を手に入れてからは更にエスカレートし、スリだけでなく、万引きや痴漢行為などを繰り返し行っていた。
万が一バレそうになっても、“手の持ち主”に罪をなすりつけられる。
そうした利点が、川内の気を大きくさせていたのだ。
「さってと~」
川内は、ポケットから財布を取り出した。
もちろん自分のものではない。
通行人の“手”を使い、祐樹から盗んだ財布だ。
中身を見た川内は、軽く舌打ちした。
紙幣は千円札のみで、残りは小銭だけだ。
「けッ!たったの“三千六百八十三円”しか入ってやがらねえ。近頃のガキなら、もうちょい持ってると思ったのによぉ~。期待ハズレだぜ」
その時、川内の耳元で何者かの声がした。
『悪かったな』
「あん?」
声の主を見た川内は、言葉を失った。
それは人間ではなかったからだ。
胸と両肩の三カ所に、大きな“メーター”を備えた人型の“スタンド”――『ボトム・オブ・ザ・トップ』が、顔を覆う半透明の黒いカバーの下にある眼で川内を鋭く睨んでいる。
「なッ……!なんだ、テメーはッ!?」
『俺も驚いたよ。まさか正解が、“その五、スタンド使いに盗まれた”だったとは思わなかったな。ついでに、さっき女の人の尻を触ったのも、あんただろ?』
祐樹の声で喋る『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、慌てる川内に人差し指を突きつけた。
「 質問に質問で返してんじゃあねーぞッ!疑問文には疑問文で答えろって教わったのか、テメーはよぉ!」
『わめくなよ。質問に答えてやってもいいけど、その前に俺の財布を返してもらおうか』
――“俺の財布”だとぉ?つーことは……。
「さてはテメー、さっきのガキだな!お前も“能力”を持ってやがったのか!」
『まあね』
前に出た『ボトム・オブ・ザ・トップ』が、腕を伸ばす。
その先にいた川内は、着ているジャケットの襟首を掴まれた。
『さて、さっさと出すもの出してもらおうか。それから、石神さんにも土下座してもらう』
基本的に、“スタンド”は“スタンド”でしか触れられない。
それを知っていたために、祐樹には油断があった。
目の前にいる男は、“スタンド”を出しているようには見えない。
よって、“スタンド”である『ボトム・オブ・ザ・トップ』をどうこう出来る訳がないと考えていたのである。
今まで人型の“スタンド”としか出会った事がなかった祐樹は、川内がポケットの中で発現させた『ダーティー・フィンガーズ』を見抜けなかった。
「わ、分かった……。じゃあ返すからよ……」
ポケットから両手を引き抜いた川内が、軽薄な薄笑いを浮かべる。
その手は、“黒い手袋”に包まれていた。
「ただし、テメーの顔面になぁ――ッ!」
『ボトム・オブ・ザ・トップ』を振りほどいた川内は、そのまま殴りかかった。
『ダーティー・フィンガーズ』は“スタンド”である。
つまり、装着している状態なら、“スタンド”に触れる事も、殴る事も可能なのだ。
『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、完全に不意を突かれた。
そのせいで、川内が繰り出したパンチの直撃を、顔面で受けてしまった。
「ぶッ!?」
ダメージのフィードバックによって、十メートル先から『ボトム・オブ・ザ・トップ』を操作していた祐樹の鼻先に、強い衝撃と痛みが走る。
バランスを崩した祐樹は、アスファルトで舗装された地面に倒れ込んだ。
「ギャハハハ――ッ!!確かに返してやったぜ、顔面になぁ!あばよ、マヌケなクソガキ!」
下品な笑いを残した川内は、脱兎の如く走り出した。
基本状態の『ボトム・オブ・ザ・トップ』の射程圏外だ。
「大丈夫!?」
相手の“能力”が明確でない以上、無闇に手の内を見せない方がいい――そう考えて状況を見守っていた李依が、倒れた祐樹に駆け寄る。
鼻血を拭った祐樹は、猛烈な勢いで飛び起きた。
「あの野郎……優しく言ってやったのに、よくも騙しやがったな!このままじゃ済まさないぞ……!ひっつかまえて、あいつが泣こうが、わめこうが構わずブン殴ってやるッ!!」
祐樹が啖呵を切ると同時に、力強く拳を握った『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、川内航平の“追跡”を開始した。

[続]
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プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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