FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

鋼鉄の要塞を打ち砕け――その4――

李依が注文しようとした時、向かいに座っていた若い男性客が、メニューを閉じて顔を上げた。
その直後だった。
李依の前にいる客――長袖のカジュアルシャツを着た少年が、飲んでいた
カフェオレを噴き出したかと思うと、むせたようで激しく咳き込んだ。
突然のことで驚いたものの、李依は落ち着いて、店員が置いていったおしぼりを手にして、テーブルの上の濡れた部分を拭き取った。
その後で、ようやく咳が止まった少年に声をかける。
「大丈夫?」
「は、はい。だ、大丈夫ですから」
話しかけられた少年は、酷くうろたえた様子だった。
赤の他人の前で醜態を見せてしまったことが恥ずかしかったのだろうか?
だが、李依は気付いていなかった。
“ある意味”では、彼が全くの他人ではないということに――。

時間は前後するが、今から30分ほど前に、祐樹を乗せた電車は駅に到着していた。
ここに来た理由は、一週間前からの約束があったからだった。
中学までの同級生で、高校からは別の学校に通っている友達と会う為に、街に出てきたのだ。
待ち合わせの場所に立っていると、携帯電話にメールが送られてきた。
急用が入って少し遅れそうなので、適当に時間を潰しながら待っていてくれとのことだった。
こうして祐樹は、街をぶらつきながら、最初に目についた店に入ったという訳だ。
中は人が多かったが、運良く一カ所だけ空いていた席を確保することが出来た。
注文したカフェオレが運ばれてくるまでの間、祐樹は自然と物思いにふけり始めていた。
入学してから、祐樹は学校中のクラブ活動に入部と退部を繰り返していた。
燃えるものが欲しかった。
周囲の人間が、それぞれ何かに熱中しているのを見て羨ましかったという以上に、自分が“生き甲斐”を求める気持ちが強かった。
確固とした土台がなく、グラグラしているのが嫌だったのだ。
大げさな言い方かもしれないが、命懸けで取り組めるような何か――決してぶれない“生き甲斐”が欲しかった。
しかし、どれもこれも、持ったのは長くて二ヶ月だった。
どうしても、これだと思うものが見つからなかったのだ。
身が入らないのに続けるのは、他の部員に失礼だ。
そう思って部長に辞めることを伝えると、一部の先輩からは「八方美人で中途半端な根性なし」だと罵られた。
それでも、自分の芯になってくれるものを探し続けた。
そんなことを繰り返していると、次第に気持ちが失せてきた。
空っぽの部分を埋めようと必死になっている自分が、ただただ馬鹿らしく思えてきた。
だから、もう探すことは止めてしまった。
それからは、部活や趣味に打ち込んでいる友達を見ては、いかにも他人事のように言葉をかけた。
「お、青春してるねえ。結構結構」
――俺には関係ない。どうでもいい。
飄々とした台詞を吐きながら、その陰で心を押し殺し、張り合いのない日常を受け入れることを自分に言い聞かせて、毎日を過ごすようになった。
しかし、本当は、いつもやりきれない思いを感じていた。
少し吹っ切れることが出来たのは、二ヶ月前のことだ。
帰宅途中で、“あの女”と遭遇して以降、自分が特殊な能力を持つ人間だということを、はっきりと自覚した。
『スタンド』の発現は、その者の内面を剥き出しにする。
祐樹の“それ”は、嫌悪してやまない自分の心の象徴だった。
自分の理想である“ぶれない人間”になれない、中途半端で吹けば飛ぶような薄っぺらい存在としての自分自身を具現化したものであった。
スタンドを表に出すということは、本当の自分と向き合うことに他ならない。
あの時、“彼”――『ボトム・オブ・ザ・トップ』と対面した祐樹にも、それが起こった。
そして、自分の本当の気持ちから逃げようとしていた自分に気付かされた。
妥協を許さずに追いかけていられる“生き甲斐”を求めながらも見つからず、その挫折感から無意識の内に目を背けて、無気力な態度で自分自身を誤魔化してきたことを悟ったのだ。
李依との一件は、祐樹にとって、自分の“生き甲斐”にすべきものは何かについて、改めて考え直すきっかけになった。
だが、あくまできっかけであり、その答えについては、祐樹自身が出さなければならなかった。
――しっかりしろよ。男だろ。
見方を変えれば、中途半端というのはニュートラルの状態だ。
これから完全になる可能性があるという風にもとれる。
そう考えることにした祐樹は、出来るだけ前向きになろうとしたが、納得のいく答えは見つかっていないままだった。
今の自分にあるものといえば、やはり『ボトム・オブ・ザ・トップ』だ。
やはり、これを生かすべきだろうか。
でも、どういうことに?
力があっても、目的がなければ意味がない。
実際、あれからも祐樹は、あまりスタンドを使っていなかった。
重ねて言うと、使うといっても大したことではなく、下らないとさえ言えるような使い方だった。
例えば、本屋で踏み台がない場合に、高い所に置いてある本を取るだとか、パソコンの前に座っている時に、そのままでは手が届かない場所に置いてあるテレビのリモコンを取るとか、専ら雑用的な用途で『ボトム・オブ・ザ・トップ』は用いられた。
便利なのは確かだが、もっとマシな事に使えないものかと我ながら思ったし、考えもした。
しかし実際の所、『スタンド』を得たからといって、それを大活躍させられる機会など、そう何処にでも転がっているものではない。
少なくとも、祐樹の周囲には、李依との戦闘以降、そういったものは見られなかった。
――漫画の主人公じゃあるまいし……。
それに、出来れば、ああいう目には二度と会いたくなかった。
「お待たせいたしましたァ~!ご注文は以上でよろしかったですかァ~?」
入店する時に祐樹を出迎えたのと同じ女性店員が、コースター、グラス、伝票の順に、以上の三つのものを銀のトレイからテーブルに移した。
「あ、はい」
店員が立ち去った後で、グラスに口をつけながら、祐樹は手元のメニューに目を通した。
「ついでに、なんか軽いものでも頼むかな」
品定めしていると、向かいの席に誰かが座った。
先程の店員が案内してきた相席の客らしい。
彼女は、祐樹には確認もせずに、さっさと厨房に引っ込んでしまった。
――よほど忙しいんだな……。まさか、ウェイトレスは一人だけなのか?でも、駅からも近いし儲かって……。
取り留めもないことを考えていた時、メニューの中にあるサンドイッチの写真が目に留まった。
よくある軽食だが、これを見る限り、なかなか美味そうだった。
――これにしよう。
メニューを閉じて、顔を上げる。
当然ながら、向かいの席にいる客の顔が視界に入ってきた。
――あれ……?
祐樹は、何か引っかかるものを感じていた。
見覚えがある。
頭の中で記憶と照らし合わせると、二ヶ月前に自分を襲った女――『石神李依』の顔と、目の前にいる女の顔が見事に一致した。
少し髪が伸びているようだが、確かに間違いない。
「ぶッ!!」
祐樹は、思わずカフェオレを噴き出していた。
それに連動するかのように、膝が貧乏揺すりを始める。
動揺している時に見られる祐樹の癖だ。
李依が声をかけてくれているが、それもロクに耳に入っていない。
自分と同じ『スタンド使い』の李依に攻撃されたことは、思い出したくない苦い記憶として、祐樹の脳裏に刻まれていた。
いわば、軽いトラウマのようなものだ。
情けないことだが、足を“砂”に変えられた時には、余りの恐怖で涙さえ流した。
もしかしたら、また同じことをされるのではないか?
そういった思いが、祐樹から落ち着きを失わせていた。
――ウソだろ、おい!ふざけんなよ……。どうする?どうすれば切り抜けられる?
まず重要なのは、これが偶然かどうかだ。
どうやら李依の方は気付いていないようだが、そこから考えると、やはり偶然なのだろう。
だが、もし気付かれたとなると、また厄介事に巻き込まれるかもしれない。
――いやいや、大丈夫だって。何もされないさ。あの時だって、最後には助けてくれたんだし……。
こうも思うが、やはり心に根付いた不安は拭い切れない。
そうなると、本格的に悟られる前に、この店から出るのが一番の安全策だ。
慎重に行動しなければならない。
どういう風に出ていくのが自然に見えるか……。
「コーヒー。それから……“一口サイズの日替わりケーキプレート”も」
「かしこまりましたァ~!少々お待ち下さいまッせェ~!」
いつの間に来ていたのか、李依から注文を受けた例の店員が、そそくさと立ち去っていった。
小さくなっていく彼女を横目で見ながら、祐樹は後悔した。
――しまった!さっき席を立つべきだった……!店員という第三者が消えて、二人が向かい合ってる状態が続いたら、いずれバレるのは確実……!ここは、少し強引にでも何とかしないと……そうだ!
一計を案じた祐樹は、携帯を取り出した。
さも通話しているように見せかけて、不自然に思われないように店を出ようと考えたのだ。
「――あ、俺。もう来てる?店の前?分かった分かった。これから出るわ」
背中に冷たいものを感じつつ、芝居をしながら、レジの方に向かう。
李依は窓の外を眺めている。
どうやら、成功したらしい。
――イエス!あっぶね……。念の為に、もうちょっと距離をとっとこう……。
店を出た祐樹は、駅とは反対方向に位置する、大きな噴水のある公園に向かって歩きだした。

その頃、李依をマークしていた立花は、喫茶店から遠ざかっていた。
煙草に火をつけてから数分後、県警から新たな事件が発生したとの連絡が入ったのだ。
それが殺人事件のようで、所轄の警察署が応援要請を出したらしい。
付近にいる一課の捜査員は、直ちに現場に向かえという指示だった。
出来れば李依から目を離したくはなかったが、呼び出しがあった以上は無視する訳にもいかない。
後ろ髪を引かれながらも、立花は手を上げてタクシーを止め、指定された現場であるD警察病院の名前を告げた。
どうも嫌な予感がした。
その警察病院に入院している、ある男が、先の獄中殺人事件に関係しているのではないかと思われている人物だったからだ。
到着した立花は、タクシーを降りた。
現場となったのは二階の病室だ。
そこは、他の患者から隔離された個室になっている。
自動ドアを抜け、待合室を通り過ぎて、その病室に足を踏み入れた立花は、顔をしかめた。
その有様は、凄惨の一言に尽きるものであった。
窓ガラスが外側に向かってぶち破られ、カーテンが風にはためいている。
室内には無人のベッドと、4人分の死体が無造作に転がっていた。
それらは、この病室にいた患者を検査していた医師と看護師だった。
清潔感のあった白い床や壁は、飛び散った血で汚れている。
それだけでも十分に惨い光景だったが、この事件を更に猟奇的なものにしている要因は、天井にあった。
まるで磔にされているかのように、二人の警官が、そこに“めり込んでいた”のだ。
よほど凄まじい力が加えられたのだろう。
亀裂の入った天井に食い込んでいる二人の身体は醜く潰れており、まともな神経なら、とても正視出来るものではなかった。
とても人間の仕業とは思えない状況だ。
「またか……」
立花は短く息を吐いた。
この病室にいた患者は『多田羅賢』という名である。
一言で言えば、凶悪犯罪者だ。
特に理由もなく、ただそうしたかったからというだけで、20件を超える傷害事件と殺人事件を引き起こした。
起訴後も反省の色は見られず、裁判では無期懲役が確定していた。
この男は、獄中殺人事件が起こった際に昏睡状態で倒れている所を発見され、その後も意識が戻らなかった為に、一時的に警察病院に収容されていたのだった。
警察としては、彼が目覚めた時に、事件に関する証言を聞き出すつもりでいた。
勿論、たとえ意識がないとはいえ、常に監視されていた。
だが、見張り役の警官達は、この状態だ。
状況から見て、犯人は多田羅以外に考えられない。
――“獄中大量殺人”といい、この事件といい、おかしな事が起こりすぎる……。もしかすると、常識では考えられないような力が働いているのかもしれんな……。
彼の思いは正しかった。
恐るべき男――多田羅賢の覚醒によって、新たな闘争の幕が上がろうとしていた……。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
現在時刻
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。