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鋼鉄の要塞を打ち砕け――その2――

――こうしていても仕方ない。街に出てみよう。
部屋に篭っていては、あれこれ考えてしまって、結局は辛くなるばかりだ。
沈んだ気持ちを慰める気分転換の為に、李依は外出することにした。
季節は九月の中旬だけあって、タンクトップ一枚で出歩くには、さすがに少し肌寒い。
備え付けのクローゼットを開け、ハンガーにかかっていたジャケットを引っ張り出す。
それを羽織った李依は、玄関のドアを通り、特に目的地のない散歩に出かけた――。

あの事件があるまで、ここは自分が住んでいた場所だ。
歩きながら街の風景を眺めると、以前と比べて変わっている所もあり、それとは逆に変わらない所もある。
しかし、この数年間の間で最も変わってしまったのは、他でもない自分だと思う。
もちろん、客観的な視点から見た場合は、話が別だ。
もしかしたら、自分以上の変化を体験した人間――あるいは場所だって存在しているだろう。
ただ、李依個人としては、そう思わずにはいられないのだった。
帰ってきた自分を、この街は昔と同じように受け入れてくれるだろうか?
言ってみれば“異分子”の私が、そこに住む人々の中に馴染むことが出来るだろうか?
ふと気が付くと、李依の足は、無意識の内に、彼女を街の一角へ誘っていた。
今では不動産事務所になっているが、少し前まで、ここには収監前に李依が所属していたボクシングジムがあった。
最盛期には多数の練習生を抱えていたが、今では当時の半分以下にまで減っていると聞いた。
恐らく、経営にも苦労しているだろう。
実際、今では規模を縮小し、この近くにある雑居ビルに間借りしている状態だという。
言うまでもなく、李依が起こした事件が原因だった。
その煽りを受けて練習生の入りが悪くなり、大会にも何度か出場停止を食らい、今の状態に至ったそうだ。
李依は、思わず唇を噛んでいた。
――私のせいだ。私が……。恩を仇で返すようなことをして……。最低だ……。私は……。
ジムが移転した雑居ビルまでは、行こうと思えば簡単に行ける距離だ。
本心を言うと、加入してから色々と面倒を見てもらったトレーナーに会って、一言だけでも挨拶したい。
迷惑をかけたことを、頭を下げて心から謝りたい。
逡巡した李依は、思わず一歩踏み出した。
――お前のせいじゃない。気にするな。
そう言ってくれるかもしれない。
優しい言葉をかけてくれるかもしれない。
――でも……。
李依は立ち止まった。
ジムの看板に泥を塗った元凶である自分を、昔のように暖かく迎えてくれるとは、とても思えない。
あれだけの事をしていながら、よく顔を出せたものだと非難されるのが当然だ。
むしろ、それが自然な反応だろう。
散々迷惑をかけておいて、昔と同じように接して欲しいというのは、余りにも虫が良すぎる。
行ってみたとしても、相手を嫌な気分にさせてしまうだけだ。
やはり、もう二度と会うことは出来ない。
何より、拒絶されるのが怖かった。
しかし、考えてみれば、自分が世話になったジムこそが、自分と同じくらいの――もしくは、それ以上の変化を経験しなければならなかった場所ではないだろうか。
そこに気付いた李依は、深い自己嫌悪に陥らざるを得なかった。
――迷惑をかけてしまった人のことより、自分の気持ちが気にかかるなんて……。私は、なんて汚いんだろう……。
李依は、ジムが入っているビルとは逆方向に再び歩き出す。
その背中に、ぽつりぽつりと雨が降り始めていた――。
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研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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