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打ち寄せる波は砂の城を崩す――プロローグ――

R県、L海岸、AM7:20――。
まだ海水浴シーズンには少し早いということもあって、人気もまばらな早朝の砂浜に、白いパラソルが立てられている。
そこに出来た日陰の中では、つばの広い帽子を被った30代半ばの女性がレジャーシートの上に座って、寄せては引いていく波を見つめている。
その視線の先では、彼女の夫と、6歳の娘が水を掛け合って微笑ましく戯れていた。
本格的に混まない内に行っておこうと、時期をずらして家族連れで訪れていたのだった。
しばらくすると、うずくまって何かを始めた娘を残して、夫が戻ってきた。
「どうしたの?」
「“見ちゃ駄目だから、あっち行ってて”だってさ」
彼女が尋ねると、夫は笑って答えた。
「出来たら見せてくれるらしいから、それまで向こうに行ったら怒られるぞ」
そう言って、彼はシートの上に寝転がった。
微笑した妻は、娘の背中に再び視線を投げかけた――。

「もうちょっと……」
二人の娘――白い帽子の少女は、一生懸命に何かを作っていた。
長い黒髪が両肩の辺りに垂れている。
俯くと、その前髪が、はらりと顔にかかった。
それを片方の手で払うと、少女は黙々と手を動かし続ける。
彼女の前にあるのは砂の城だ。
なかなか手先が器用らしく、幼い子供の手によるものにしては、よく出来ている。
ところが、もうすぐ完成するという所で、一際大きな波が砂浜に打ち寄せてきた。
少女が声を上げる間もなく、あっけなく砂の城は形を崩し、壊れてしまった。
透き通った少女の瞳が、涙で潤んでいく――。

「李依、どうした?」
「みせたかったのに……せっかく……おしろ……つくったのに……」
両親のいる所に戻ってきた少女は、後から溢れてくる涙を懸命にこらえ、父親の足にしがみついてきた。
しゃくり上げながら訴える。
娘に連れられて、先程まで彼女がいた場所を見た父は、屈んで目線を合わせてから、優しく告げた。
「李依……。砂のお城は簡単に壊れちゃうけど、また作れるんだよ。今度は、お父さんと一緒に作ろうね。そしたら、お母さんに見せてあげよう」
「ひっく……うん……!」
「よしよし、李依は良い子だな。お父さんもお母さんも李依の事が大好きだよ――」

――それは、彼女の人生における過去の一つだった。
悲しいことだが、今となっては、どうでもいいものだ。
思い出は大事でも、実質的には何の役にも立たない。
彼女の場合は、特にそうだった。
そんなものを思い出してしまったのは、現在の彼女がいる場所が、余りにも退屈過ぎるからだろうか。
起き上がってから数分後、いつもと同じように点呼をとる声が聞こえてきた。
今日も一日が始まる。
何の意味もない空っぽの一日が……。
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研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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