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打ち寄せる波は砂の城を崩す―その9―

この時、李依は、少年の行動を“読み切った”と確信していた。
そして、その確信から、自分の心に“油断”が生まれていることに気付いていなかった。
自分自身は闘いの“プロ”であり、対する少年は“素人”であるという認識そのものが、排除すべき固定観念だったのである。
本来ならば、同じ力を持つ者同士の闘いに臨む気持ちを新たにした時に、そこから脱却していなければならなかった筈だ。
だが、プロボクサーであった過去への執着を抱き続けている李依は、自分は“プロ”であるというプライドを捨て去ることが出来なかった。
少年は、それが行動に現れるのを待っていた。
少なくとも、自分よりは遙かに“プロ”であろう李依が、自分を“素人”だと考えて立てた予測に従って動くのを待っていたのだ。
そして、今がその時なのだ。
一気に“メーター”の針が振り切れた『ボトム・オブ・ザ・トップ』が、神速の動きを見せる。
その肉眼で捉られない程の韋駄天の如きスピードは、『プレイグス』のそれを大きく上回っていた。
先程までの経験によって、本体の少年も、自分の『スタンド』の能力は、おおよそ理解していた。
そして、パワーを失う代わりに『ボトム・オブ・ザ・トップ』を最大まで加速させ、振られた『プレイグス』の右腕を掴んだのである。
もし李依が“プロ”でなかったら、こう上手くはいかなかっただろう。
何故なら、自分が“素人”で彼女が“プロ”だったからこそ、“プロなら素人である自分の考えを読んで背後を攻撃するだろう”ということを、逆に予想出来たのだ。
攻撃してくる方向さえ分かっていれば、『ボトム・オブ・ザ・トップ』の最大速度で相手を捕捉することは容易い。
勿論、掴んだといっても、スピードを急上昇させた場合の『ボトム・オブ・ザ・トップ』のパワーは、ほぼ皆無である。
それこそ、小さな幼稚園児の腕力にさえ簡単に振り解かれてしまう程に貧弱だ。
たとえ掴めても、到底『プレイグス』を抑えてはいられない。
これを打開する為に、少年は再び“能力”を使用した。
“メーター”の針が、さっきとは逆方向へ大きく振れる。
スピードを落とすのと引き替えに、今度はパワーを最大限に引き上げたのだ。
途端に、万力で締め上げられているかのような凄まじい握力が発生し、『ボトム・オブ・ザ・トップ』の左腕に固定された『プレイグス』の右腕は、ピクリとも動かせなくなった。
「くうッ!?」
骨を軋ませるような強い痛みに耐える李依の口から、苦しげな呻き声が漏れた。
――ったく、中途半端な“能力”だ。けど、足りない分は俺の機転で補うさ。こうやって一度掴んでしまえば、もうスピードなんか関係ないからな。
『ボトム・オブ・ザ・トップ』が、『プレイグス』を捕らえたままで左腕を引っ張る。
結果として、『プレイグス』は、引きずられるような形で、大きく体勢を崩されることになった。
その先には、鋼鉄の塊さえ押し潰す大型プレス機を思わせる、圧倒的な力をみなぎらせた『ボトム・オブ・ザ・トップ』の右腕が、既に待機している。
――といっても、この“骨折した亀”みたいなスッとろいスピードじゃあ、普通に殴りかかるのは無理そうだしな。だから、そっちから来てもらうことにしたぜ。食らいな……!
よろめいた『プレイグス』が、隙だらけの状態で半ば倒れるように引き寄せられてくる。
拳を握った『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、ガラ空きになった『プレイグス』の腹に“軽く”拳先を押し込み、ぐいと捻じ入れた。
『スタンド』が負ったダメージは本体にフィードバックされる。
この法則に則り、『プレイグス』が受けたものと同じ強烈な力が李依を襲う。
「かはッ……!」
肺を圧迫されて呼吸が出来ない。
集中力が乱れ、『ザ・プレイグス』のヴィジョンが消失していく。
『スタンド』が“解除”されたのだ。
――まずはボディーを打って動きを止めた……。せっかく厄介な奴が消えたんだ。このまんま畳ませてもらうッ!
ここで、もう一度最大パワーで攻めることも可能だったが、そうするとハイリターンではあるものの、ハイリスクにもなるのは間違いない。
用心した少年は、確実にダメージを蓄積する方を選んだ。
「うらぁッ!」
パワーとスピードを“デフォルト”に戻した『ボトム・オブ・ザ・トップ』が、咳き込む李依の顎に、容赦なく追撃のアッパーカットを打ち込む。
食らった李依が後ずさり、二人の間に若干の距離が開いた。
口の中が切れたらしく、李依の唇の端から、一筋の血が流れている。
――普通なら、無抵抗の女の人を男が本気で殴るなんてのは、「マジサイテー」って感じで非難されるだろうな……。けど、今は話が別だ。飢えたライオンに食われそうになってんのに、「可哀想だから自分がエサになってあげよう」なんて思う奴なんかいるか?悪いが、全力でブン殴らせてもらったよ。
この時点で李依の視力は回復していたが、少年の攻撃は、まだ続いている。
この勢いに乗り、反撃する時間を与えずに、闘いを決着させるつもりだった。
だが、パワーを上げれば、その分だけスピードが落ちてしまう『ボトム・オブ・ザ・トップ』で、相手をノックアウト出来るような高威力の攻撃を命中させるには、相手の注意を『スタンド』から外させなければいけない。
「あんたは“俺の動きを読んだ”んだろうけど、俺は“あんたが俺の動きを読むだろうということを読んでいた”のさ。俺の方が上手だったって訳だ。そっちから仕掛けてきた割には、全然大したことねえなぁ~?」
内心では肝を冷やしながら、精一杯の生意気な顔を作って、少年が挑発する。
その間に、加速した『ボトム・オブ・ザ・トップ』は、李依の斜め後方に素早く回り込んだ。
――我ながら小物くせー……。けど、今はこうするしかない……。ハッタリでも挑発でも、半端者には半端者なりのやり方ってのがある。次が命中するまでは俺の方に注目してくれないと……。頼むからバレるなよ……。
“読み合い”に負けたことで、不覚にもカッとなっていた李依は、少年の言葉に刺激されて、『ボトム・オブ・ザ・トップ』の動きに気付いていなかった。
少年は、入学したばかりの頃に、友人に誘われて二ヶ月だけ空手部に入っていたことがある。
先輩と後輩の人間関係が嫌になり、今一つ熱中することが出来なかったのもあって、これも結局は止めてしまったのだが、その時に聞いた話を、彼は思い出していた。
――頭に強い外力を受けると、脳震盪を起こして意識がブッ飛ぶとか……。格闘オタクの先輩が自慢げに言ってたっけな……。そんなに期待はしてないけど、いい所に当たってくれよ!
片足を振り上げた『ボトム・オブ・ザ・トップ』が、状態を“パワー寄り”に切り替える。
そして、ふらつきながらも何とか踏みとどまった李依は、いまや“キレる”寸前にあった。
ボクサーは殴り合いの“プロ”だ。
その自分が、“ド素人”の少年に殴られたという事実が、李依から冷静さを失わせていた。
――クッ……クソガキがッ……!ちょっと裏をかいたくらいで……!いい気になって馬鹿にしてんじゃあねーわよッ!!
「こ……このッ……!はッ!?」

少年の言葉は李依のプライドを少なからず傷付け、彼が考えている以上に踏んではいけない部分を踏んでしまっていたが、そんなことを考えている暇などなかった。
『プレイグス』を出そうとした李依の側頭部に、『ボトム・オブ・ザ・トップ』の全身全霊を込めたハイキックがブチ当たる。
ものの見事に直撃だ。
これにはたまらず、李依の身体は、弾かれたように大きく跳ね飛ばされた。
――くッ……!ま……まずいッ!
すぐ後ろにはコンクリートの壁がある。
このまま何もしなければ、頭からしたたかに叩きつけられてしまう。
そうなったら単純なダメージだけでなく、どうしても多少の隙は出来る。
彼は見逃してくれないだろう。
これ以上、少年の『スタンド攻撃』を許してはいけない。
「『プレイグス』ッ!」
瞬時に出現した『プレイグス』が、本体の李依がぶつかる直前に壁を殴りつける。
“能力”によって壁は“砂”となり、突き抜けた李依の身体は、廃屋の三階から外へと飛び出した。
『スタンド』を地面に向けて放ち、着地した際の衝撃を強引に和らげる。
今まで追う側だった李依は、ここで初めて自ら逃げる側に回ったのだ。
――いけない……。危うくプッツンする所だった……。冷静にならなくては……!いつまでも相手のペースで好きにさせてはおけないわ。ひとまず態勢を立て直さなければ……!
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研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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