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打ち寄せる波は砂の城を崩す―その8―

――攻撃されるような隙を見せなければ、痺れを切らして自分から姿を見せると読んだけど……予想通りね。
大方、追ってきたのを待って死角から仕掛けるつもりだったのだろうが、余りにも見え透いている。
そして、本命こそ外れたが、近付くことには成功した。
『プレイグス』の射程内に入ったからには、もう何処へも行かせない。
「逃がしはしないッ!」
二人の間は2mと離れていない。
随分と手を焼かされたが、今度こそ終わりだ。
右腕を引いた『プレイグス』が、少年の前に立ちはだかった。
「くそッ!」
やや遅れて、『ボトム・オブ・ザ・トップ』も迎え撃つ姿勢を見せる。
――今更、何をしても無駄よ。スピードは同じでも、攻撃に入ったのは私が先……!避けられはしないし、ガードされようが構わず“砂”に変えるッ!
しかし、次に起こった事態は、李依でも予測出来ないものだった。
『ボトム・オブ・ザ・トップ』の身体各所に埋め込まれている“メーター”――その中央を指していた針が片方に大きく傾いたかと思うと、『ボトム・オブ・ザ・トップ』の両腕が唸りを上げ、先程とは比べものにならない速度で続けざまに繰り出されたのだ。
かつてはプロボクサーであった李依の優れた動体視力を以てしても、とても捉えきれない。
その恐るべきスピードは、『プレイグス』のそれを遙かに凌いでいる。
それまでが自転車だとすれば、さながら新幹線のような猛スピードだ。
「なッ!?」
――速い!さっきとは、まるで違う!防御も回避も間に合わないッ!
驚いているのは少年も同じだった。
『ボトム・オブ・ザ・トップ』が、こんなに素早く動けるとは思わなかったのだ。
超高速の連続攻撃が『プレイグス』に命中し、李依が怯む――。
だが、それだけだった。
防御も出来ずに、まともにラッシュを食らったというのに、少しも痛みを感じない。
まるで重さとは無縁の、貧弱で軽いパンチだ。
スピードの凄まじさとは裏腹に、その拳には全くパワーが宿っていないかのようであった。
――おいおい、なんだよ!これっぽっちも効いてないぞ!いきなりスピードが上がったから、ちょっとはいけるかと思ったけど……。やっぱり直接対決は不利だ!となると……。
「また後手かよッ……!」
――とにかく今は離れる!かといって、離れすぎて見失ったら、また見えない場所から襲われるのは確実だ……。さっきは運が良かったけど、そうなったら今度こそ避けられる自信がない……!くそッ!どっちにしても不利な状況だ……!こうなったら、一カ所に立ち止まらないように、出来るだけ動き回って隙を待つしかないッ!
『スタンド』を戻して逃げ去ろうとする少年の背中を睨みながら、李依はポケットに手を突っ込み、鈍く光る何かを取り出した。
それは、プレハブで見つけていた、一掴みの“ナット付きボルト”だった。
正六角形になっているネジ山の頭部同士がぶつかって、金属質の音を立てる。
これらは、“鉄パイプ”を足場として組む際に用いられていた工業部品の一部だ。
「言った筈よ。逃がさない……と」
――使えるかと思ってポケットに捻じ込んでおいた、この頑丈な“鋼製六角ボルト”……。そう何度も走らされるのも流石にしんどいし……。
弄ぶようにして李依の手から放たれた10個の“ボルト”が、宙を舞った。
それを軽くキャッチした『プレイグス』が、走る少年の足元を狙い、逞しい肩の回転を駆使して全力投球する。
『プレイグス』の精密動作性では全て命中とはいかなかったが、10発中3発が少年の足に鋭く食い込んだ。
「だッ!?」
いきなり飛び道具による攻撃を食らったせいで、身体から力が抜け、その拍子に少年は転んでしまった。
半端じゃなく痛い。
『プレイグス』のパワーは人間以上である。
それを考えると、骨にヒビくらいは入っているかもしれない。
――分かりかけてきた。さっきの腑抜けたパンチ……。最初のパンチと比べて、スピードが上がる代わりにパワーが落ちていた……。恐らく、あれがあの『スタンド』の“能力”……。
ラッシュこそ見えなかったが、李依の動体視力は、攻撃の直前に『ボトム・オブ・ザ・トップ』の“メーター”の針が動くのを目撃していた。
あの針の動作は、スピードの上昇と連動していたのではないだろうか。
動きが止まった少年に李依が近付いていく。
少年の方は、傍に積んであった重そうな袋の山に手を置いて立ち上がろうとしているようだ。
――まだ確証はないけど、パワーを犠牲にすればスピードを上昇させられるような“能力”じゃあないかしら。もしかしたら逆も可能かもしれないけど、そうなるとスピードが落ちることになるから、今度は当てられなくなる……。どっちにしても中途半端ね。
李依は半端が嫌いだった。
一度決めたことは最後までやり抜くというのが彼女の信条だったからだ。
間を取るなどという煮え切らない選択肢は、李依にとって逃げる為の言い訳でしかない。
彼女からすれば、この少年の『スタンド』は、中身がない薄っぺらなハッタリだけに思えた。
そんな“ハリボテ”よりは、子供の頃に海辺で作った“砂の城”の方が、いくらかマシというものだ。
「これで……」
少年を冷たく見下ろした李依が呟く。
その瞳には、逮捕された原因である傷害事件の容疑者となった時の目と同じ種類の輝きがあった。
今度は外れないだろう。
攻撃の意志に呼応した『プレイグス』が腕を上げ、そして降ろす――。
手応えがあった。
しかし、少年もただされるがままになるつもりはない。
こちらの方向に逃げてきたのも、ある作戦を思いついたからだ。
相手に隙が見当たらないなら、隙を作らせればいい。
『プレイグス』の拳は、『ボトム・オブ・ザ・トップ』が抱え上げた、厚手で丈夫なことで知られるクラフト紙製の“5kg入りセメント袋”によって受け止められていた。
袋の外側が砂に変じていくのを見て、『ボトム・オブ・ザ・トップ』が腕を大きく横に振り、詰められていた中身を李依の顔面に思い切り浴びせかける。
「うッ!?」
濛々と立ち込める白い煙が、煙幕のように李依の視界を覆い尽くす。
袋の中身は、勿論“セメント”の粉末――それも“石灰”を多量に含んだものだった。
“やられた”と思った時には、もう遅かった。
瞼を閉じるのが間に合わず、目に入ってしまったらしい。
視界が妨げられたことで李依の動きが止まり、『プレイグス』の攻撃は完全に中断された。
――よしッ!なんでもかんでも殴ってるから、そうなるんだよ。
砂に変えられるのは『スタンド』が触れた部分だけ――鞄の中に入れてあった品物がそのままだったのを見ていた少年は、それを利用したのだ。
少年にとっては、まさに絶好の機会が訪れたのだ。
しかし、不意の目潰しを受けても、李依は冷静だった。
ここで慌てて行動しては、相手の思う壺になってしまう。
相手は必ず攻撃してくる。
それを待って、向こうの裏をかいた攻撃を仕掛けるのが得策だ。
即座に判断した李依は、視覚による索敵を放棄し、目を閉じたままで、全神経を聴覚に集中させた。
たとえ僅かな物音一つであっても、決して聞き逃しはしない。
襲ってくる方向さえ分かれば、この状態から攻撃されようとも、十分に対応する自信があった。
相手が“素人”であることを考慮すれば、自ずと予測は立てやすくなる。
一時的に姿を隠すことに成功した少年は、“絶対に安全だと思っている方向”から攻撃してくるに違いない。
――つまり、普段から目で確認することが出来ず、どうしても死角になってしまう“後ろ”から……。
恐らく、彼は自分の“奇襲”が上手くいったと確信していることだろう。
当然、次に起こす行動も無事に達成出来ると考えている筈だった。
もしそうだとすれば、これはピンチではなく、むしろチャンスである。
何故なら、一歩間違えれば、確信は“油断”に繋がるからだ。
――この“読み合い”は、私がもらったッ!
「――そこッ!!」
気付かれないよう静かに息を吸った李依は、振り向きざまに『スタンド』の裏拳を放ち、背後の空間をなぎ払った――。
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研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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