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打ち寄せる波は砂の城を崩す―その4―

「はぁッ……はぁッ……。くそッ、なんなんだ?あの姉ちゃんは!?」
ようやく人心地ついた少年は、乱れた呼吸を整え、頬を這う玉のような汗を手で拭った。
彼が逃げ込んだのは、資金不足で工事が止まってしまった無人の建設現場だった。
再開の目途が立たないらしいが、かといって完全に中止する訳でもなく、中途半端な状態のままで長らく放置され続けている。
色々と複雑な事情や経緯は存在したものの、そういった話は、少年がここへ逃げ込んできたこととは無関係である。
その入口は南京錠がかけられた開閉式の金網で閉ざされ、それ以外の部分を金属製のフェンスが隙間なく取り巻いている。
少年は、“立ち入り禁止”というプレートが張られた金網を乗り越えて、ここに侵入していた。
ちょっと見ただけでは分からないが、さっきの角の近くに抜け道があって、そこを進んでいくと、この場所に出られるのだ。
一応は一安心だが、さっきの女が、まだ近くにいるかもしれない。
今、外に出ていくのは危険だ。
とりあえず、しばらく隠れて、時間が経ったら、他の道を通って帰ることにしよう。
なにしろ、自分が見た限り、相手は相当に“マジ”な雰囲気だった。
虫の居所が悪かったとか、男にフラれた八つ当たりだとか、そんな感じではなかった。
目を見れば分かる。
……いや、見なくても分かる。
そもそも雰囲気からして、ただごととは思えない。
さっきの女からは、目の前にいた自分を、“何が何でもどうにかしてやろう”という確固たる意志が、はっきりと感じ取れた。
「あー……」
銀色のフェンスに背を預けて座り込み、ため息をつく。
彼にとって、非常に重要な問題が一つ残っているからだ。
「携帯も財布も置きっぱだよ……。ったく、勘弁してくれ。マジありえねえ」
教科書やノートは、まだ何とかなるが、全財産と生活必需品の携帯電話をなくすというのは、余りにも痛すぎる。
例えるなら、全身複雑骨折の上に、男の看護士に世話をしてもらうようなものだ。
「マジ死ぬって。あれがないと。うっわ、もう本当に止めてくれ」
鞄の中身まで砂にならなかったのが唯一の救いだった。
だからといって、取りに戻ったら、また鉢合わせしてしまう。
どうしたものか……。
ここで少年は、先ほど襲ってきた女の姿と顔を思い出した。
もちろん見覚えはない。
全く知らない、見ず知らずの人間だ。
「フツー、いきなり襲ってくるか?もしかして、なんかヤバい人だったのかよ……」
しかし、それ以上に気になったことがある。
女の傍らに立っていた“首なし石像”だ。
――あれは、俺のと同じ“幽霊”なのか?
少年は回想する。
今から三週間前のことだった。
爽やかな初夏の風が顔を撫でたかと思った瞬間、その風を切り裂いて飛来した『矢』が、少年の背中に勢いよく突き刺さった。
奇しくも、彼は李依と同じ謎の人物――『矢の男』によって、『スタンド使い』としての能力を引き出されていたのだ。
「おめでとう……。君には才能があったようだ。それを使って、何でも好きなことをやるといい……。では、これで。ぜひ有効に使ってくれたまえ」
質問する暇も与えずに、それだけを言って、倒れた少年が再び目を開けた時には、もう男はいなくなっていた。
それから、彼には今まで見えなかったものが見えるようになった。
『スタンド使い』になったものの、『スタンド』に対して知識がなかった少年は、それを霊感か何かだと解釈した。
一番最初に見たのは、自分の背後に現れた“幽霊”である。
気配を感じて振り向くと、そこに、得体の知れない者が立っていたのだ。
頭や胸、両手足に、“オートバイのスピードメーター”のような目盛りが、幾つも埋め込まれている。
半透明の黒いカバーで覆われた顔の奥には、目や口などのパーツが、うっすらとだが透けて見える。
その“幽霊”は、一般的に言われているようなものではなく、まるで機械と人間が融合したかのような、奇妙で独特な姿だった。
恐ろしくなって、消えて欲しいと念じたら、その通りに“幽霊”は音もなく消え失せた。
以来、彼の前に“幽霊”は現れていない。
だが、いつも自分の近くにいるような感覚があった。
これは“取り憑かれた”ということなのか?
あの時、消えたように見えて、実は自分に“取り憑いていた”のだろうか?
テレビでよくやっている、胡散臭い除霊だとか浄霊と呼ばれるものが思い浮かんだが、その“幽霊”が何か悪さをする様子もないので、気になりながらも、少年は放っておくことにした。
また、このように“取り憑かれている”のは、自分だけではないようだった。
近所に一家で住んでいる、冴えない中年のサラリーマンの傍らに、奇怪な“影”が見えたこともある。
彼には、それが見えているのかどうかは分からない。
教えてやろうかとも思ったが、変に思われそうだったので止めた。
どうせ、俺には関係のないことだ。
それで何か得をする訳でもないし、余計なことに首を突っ込むと、大抵ロクなことにならない。
ましてや、“幽霊”と関わる経験なんていうのは、一つだけで十分だ。
実際、たった今、自分と同じ“幽霊憑き”と関わったせいで、酷い目に会っている真っ最中なのだから。
しかも一方的なのだから、更に理不尽だ。
ふと、考える。
もしかすると、さっきの女が、いきなり襲いかかってきたのも、“幽霊”の仕業なのだろうか?
俺の“幽霊”は、わりかし大人しいようだけど、中には、“取り憑いた人間”に影響を及ぼして、害になるようなのもいるのかもしれない。
だとすれば、あの人の責任じゃないってことになるんだが……。
しかし、鞄を“砂”に変えてしまったのだから、どっちにしても恐ろしい。
あの分だと、何でも“砂”に変えてしまえるのかもしれない。
――あー、そんな事どうだっていいんだよ。ったく、何を考えてんだ、俺は。
「ん……」
手の甲に、上から降ってきた何かが触れる感触があった。
手を軽く振って、それを払いのける。
それは、普段なら気にも止めないようなものだった。
だが、少年の表情が強ばった。
生物としての本能なのか、あるいは『スタンド使い』としての勘が働いた結果か、彼の脳が再び危険信号を発したのである。
これに従い、すぐさま飛び退いてフェンスから離れる。
そう、それは渇いた“砂”だった。
直後、つい先程まで少年がいた場所を狙って、何かがフェンスを突き破るようにして飛び出してきた。
「マジかよ……!き、来やがったッ……!」
フェンスの一角に穴が開き、そこから“右腕”が突き出されている。
生じた隙間を、もう一方の“腕”で押し広げ、その全身が徐々に露になっていく。
生物であろうが無生物であろうが“砂”に変える能力を持つ『スタンド』――『ザ・プレイグス』が、開いた隙間から、ゆっくりと姿を現した……。
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プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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