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第5話「カゲビトがきた!!」

うわさとお化けは、よく似ています。
両方とも、現れたり消えたりするものだからです。
子供のころに、花子さんのうわさを聞いたけれど、一度も出会わなかったという人もいるでしょう。
でも、がっかりしないで下さい。
もしかしたら、あなたが大人になってから会えるかもしれないのですから。
これは、そんな少し未来のお話です……。

今はもう誰もいない、古びたお寺の裏庭で、やみ子さんは、たくさんの黒い影に苦戦していた。
月の光に照らされたお墓で、ドクロのペンダントが宙を舞う。
ペンダントは影の一つに命中し、影はペンダントの中に吸い込まれていった。
しかし、いくらやっつけても影は増えていくばかりで、いっこうに減る気配がない。
「ちっ。これじゃ、きりがない」
はね返ってきたペンダントをキャッチして、やみ子さんは悔しそうに言った。
ここに着いてから、ずっと、この影たちを相手にし続けている。
さっきから、何度もペンダントを使っているので、疲れて腕も上がらなくなってきていた。
「この!えぇーい!!」
やみ子さんが、月明かりにペンダントをかかげる。
すると、ペンダントが強い光を放ち、周りにいた、たくさんの黒い影が、次々にペンダントに吸収されていく。
お墓を埋めつくすほどだった影たちも、一気に数を減らした。
ところが、あまりに多くの影を吸収し過ぎたのか、だんだんと、ペンダントにヒビが入り始めたのだ。
「うっ……?うわぁっ!?」
ヒビはどんどん大きくなり、なんとやみ子さんのペンダントは、粉々に砕け散ってしまった。
それと共に、せっかくやっつけた影たちも、ペンダントの外に飛び出していく。
影たちは、お互いにくっついて一つの大きな塊になり、崩れかけた鐘突き堂の方へ逃げていった。
「あ!ま、待て!」
やみ子さんは慌てて追いかけるが、お堂に着いた時には、もう影たちの姿は見当たらなかった。
念のため本堂も見て回ったが、どこにもいない。
どうやら、完全に見失ってしまったらしい。
「くそ……。あいつら……」
やみ子さんは、壊れてしまったペンダントを作り直すために、やみの中に消えていった。

レイコは、地元の小さな出版社につとめている。
今度の雑誌記事のために、廃校になって一ヵ月後に取り壊されてしまう小学校を取材することになったのだが、それがレイコの母校なのだった。
建物は残して町のために使うという話もあったので、そのために工事は延期されていたが、結局それはなくなり、予定通りに工事がされることになったらしい。
「なつかしいなぁ。そういえば、みんな元気にしてるかな?」
ふと、子供のころの思い出がよみがえってきた。
レイコが小学生の時には、たくさんのうわさ話があった。
首がなる木のうわさ、トンカラントンのうわさ、人食いランドセルのうわさ……。
中でも一番種類が多く、有名だったのは、花子さんのうわさだ。
トイレにいる怖い花子さんのうわさや、困っている人を助けてくれる花子さんのうわさなど、色々なものがあった。
学校の七不思議を解明すると意気込んで、友達と一緒に放課後の教室で騒いでいたこともあった。
もちろん、七不思議を信じていた訳ではない。
信じていないからこそ、気軽に楽しめたのだ。
あの時も、結局なんにも起こらなかった。
「楽しかったなぁ……。本当に子供だったのよね……」
子供のころは、学校に行けば、取るに足らない話でよく盛り上がっていた思い出がある。
でも、うわさはいつか消えていくものだ。
大きくなるにしたがって、レイコもうわさの事は忘れていった。

レイコが会社を出て家に帰ると、
中学一年生になる弟のカズキが一足先に食卓についていて、つまみ食いをしていた。
「こら、ぎょうぎ悪いよ」
「あれ?姉ちゃん、帰ってたの。あ、そういえば次の取材どこ?」
カズキは将来の夢がジャーナリストというだけあって、最近はレイコの仕事にも興味を持っていたのだった。
「あたしの母校のA小学校よ。廃校になったから、来月に取り壊されちゃうらしくてさ……。それで、その前に取材しとくの」
それを聞くと、カズキは急に心配そうな表情になった。
「止めといた方がいいよ。だって、その辺りに幽霊が出るってうわさだよ?」
「大丈夫よ。そんなの、ただのうわさでしょう。一体どういううわさなの?」
「えーと……。誰もいないのに夜中に明かりがついてるとか、足音が後ろから追いかけてくるとか……」
「そういううわさなら、あたしが小学生のころからあったわよ。もちろん何にもなかったけどね。だから、大丈夫大丈夫」
いくらカズキが言っても、レイコは全く取り合わない。

そして、取材の日をむかえた。
長く勤めていた先生達に話を聞いた後、学校の写真を撮るために、レイコは先輩のメグミと一緒に、車で学校に向かった。
ラジオからは、『恋人たちの罪』という曲が流れている。
レイコたちが小さかった頃に流行った曲で、今でも根強い人気がある往年のヒット曲だ。
到着して車から降りると、もう日が暮れていた。
昔は真新しく見えた学校も、久しぶりに来てみると、もうだいぶ古くなっているのが分かった。
レイコとメグミは、校舎の中に入っていく……。

メールを送信して携帯電話を閉じると、カズキは再び自転車をこぎだした。
夕日で赤く染まった上り坂を、汗をかきながら、力一杯に登っていく。
その時、誰かの視線を感じた。
顔を上げて前を見ると、遠くのガードレールの上に、ピンクのリボンをつけた女の子が座っている。
女の子の背中側には、深い排水溝があった。
「危ないなぁ。あんな所にいて」
そう思いながら、カズキは脇を通り過ぎようとした。
それに従って、女の子の姿が徐々に視界の中心に入り、今度は端の方に移っていく。
そして、女の子の姿が視界から消えた。
「あれっ?」
カズキは違和感を感じて立ち止まった。
女の子がいない。
まるで最初からいなかったように、完全に消えてしまっている。
「なんだよ……。気味悪いなぁ。近道して帰ろう」
カズキは坂を登りきると、自転車を押して、裏通りの塀の間にある一本道に入った。
ここを通れば、家から学校までの近道になるのだが、幅がせまいため、自転車を降りて通らなければならない。
この道は、昼でもあまり日が当たらないため、いつもうす暗かった。
そばにお墓があることもあって、なんとなく通りづらく、いつも使っている訳ではなかった。
しばらく進むと、前の方から誰かが近付いてきた。
「珍しいなぁ。他の人が通るなんて……」
カズキは、道をゆずろうと、出来るだけ塀の方に移動して、その人が来るのを待った。
「……うわぁ!?」
だが、それは人ではなかった。
最初は黒い服を着ているのだと思ったが、それは人間の形をした影そのものだった。
カズキが気付いた時には、だいぶ近くまで来てしまっている。
逃げようとして後ろを振り返ったが、そこにも黒い影がいて、だんだんこっちに近寄ってくる。
どこにも逃げ場がないと思った時、甲高い女の子の声が聞こえた。
「お待ちなさい」
見ると、塀の上に、さっきの女の子が座っている。
夕方に家に帰る子供を連れていってしまうという、よみさんが現れたのだ。
よみさんは、黒い影たちに話しかけた。
「その方は、私のお客様ですの。どうかお引き取り願えませんか?」
だが、影たちは構わずカズキに黒い手を伸ばした。
「それなら、こうですわ!」
よみさんが投げつけたリボンが、ひらりと飛んで、影の一つに絡みついた。
そして、次の瞬間には影は消えてしまい、リボンだけが、はらりと地面に落ち、風に舞って、よみさんの手の中に戻った。
「それっ!」
よみさんは、今度はもう一つの影に向かって、リボンを飛ばす。
その時、横から飛んできたドクロのペンダントが、リボンよりも先に影に命中した。
影がペンダントに吸い込まれると、そこには、夕日を背にして、もう一人の女の子が立っていた。
「あら、やみ子さん。お久しぶりですわ」
よみさんは、塀から降りると、やみ子さんの横に立った。
「そうそう。花子さんはお元気かしら?」
やみ子さんは、ペンダントを首にかけると、よみさんをにらみつけた。
「お前に構っているひまはない」
そう言って、やみ子さんは、さっさと歩いていってしまった。
影がいなくなった間に、いつの間にか、カズキも無事に帰っていったらしい。
「あいかわらずの調子ですわね。あの方も、どこかへ行ってしまったようですし……」
よみさんは、興味ありげにくすりと笑って、夕日の中に消えていった。

レイコとメグミは、教室を一つずつ回って写真を撮っていった。
一階は二人で撮っていたが、同じ場所を撮っていたら時間がかかるので、二階で分かれることにした。
メグミが三年二組の教室に入り、レイコは、その向かいの四年二組の教室を担当する。
そっと扉を空けて中に入り、教室の様子や、窓から見える風景を、デジタルカメラに収めた。
「小さい机……。さすがに、もう座れないわね」
二組は、レイコがいた教室だった。
昔のままという訳ではないが、机の配置などは、あまり変わらない。
なつかしくなって、つい椅子を引き出して座ってみたが、思った通り、かなり窮屈だ。
差し込む夕日が机に反射して、少しまぶしい。
こうしていると、放課後の時間を思い出す。
今にも、横にいる友達が話しかけてきてくれるような気がした。
この学校も、ここから見える景色も、もうすぐ見られなくなる。
昔あった、たくさんのうわさと同じように消えてしまい、じきに忘れられるのだろう。
自分も忘れてしまうのじゃないかと思う。
実際、ここに来るまでは忘れていたのだから。
工事が済めば、また記憶から徐々に薄れていき、こうして思い起こすことも出来なくなる。
もしかしたら思い出も一緒に消えてしまうのだろうか。
そう思うと、なんだかとても寂しい。

ふと時計を見ると、結構な時間が経っている。
どうやら、少しぼんやりしていたらしい。
「やば」
レイコは慌てて教室を出たのだが、メグミがいる気配がない。
二階の教室を全部見て回ったのだが、どこにもいない。
「せんぱーい?三階かな……。やばいなあ。謝らないと」
ところが、三階にもメグミの姿はなかった。
一階に降りてみたが、そこにもいない。
車に戻ったのかと思ったが、廊下の窓から見ても、車の中は空っぽだ。
メグミの携帯にかけてみても、呼び出し音が続くだけだった。
レイコは、カズキの話していた幽霊や、自分が通っていた頃のうわさを思い出していた。
そんなはずないと思っていても、やっぱり不安になってくる。
もう時間は午後七時近い。
まだ残暑は厳しいといっても、もうすぐ秋になるこの時期は、そろそろ日が沈んでくる時間だ。
その時、廊下を歩いていたレイコの足が止まった。
前方にある、六年一組の教室の扉が、わずかに開いている。
その隙間の内側から廊下に向かって、床の上に、長い影が伸びているのが見えた。
「……先輩?」
レイコが近付いていくと、影は教室の中に引っ込んでしまった。
おそるおそる、レイコが扉に手をかけて大きく開けた。
「なんで……?」
教室には、特に変わった様子はない。
ただ、誰もいなかった。
扉の近くに、影を作るようなものさえない。
レイコが周りを見渡していると、背後で、さっき開けた扉がひとりでに閉まった。
同時に、机や椅子、教卓の影から、人間の形をした影たちが、ゆっくりと這いだしてきた。
それらは、一斉にレイコを取り巻くように近付いてくる。
「ひっ!なっ、なに!?なんなの!?」
逃げようとするが、扉は鍵をかけられたように開かない。
扉を背にして追いつめられたレイコの間近に、影たちが迫る。
今まで体験したことのない恐怖に耐えられなくなったレイコは、しゃがみこんで固く目をつぶった……。

――目を開けると、そこには小さな女の子がいた。
おかっぱ頭で、チューリップのアップリケが縫いつけられた赤いスカートを履いている。
「もう大丈夫よ」
女の子は、そう言って、子供を安心させるように微笑んだ。
見ると、奥の方の椅子にメグミが座って、机に突っ伏して眠っている。
無事なようだ。
「だ、誰?誰なの?」
「わたしは、うわさの花子。カズキくんが、私を呼んだの。何かあったら、お姉さんを助けてほしいって」
「え?花子……さん……?」
「早く帰ったほうがいいわ。カゲビトたちが集まってきてるから」
花子さんは、教室を出て、屋上への階段を上がっていく。
その横には、いつものようにホワホワちゃんも一緒にいる。
レイコは、さっきからの出来事が信じられなかった。
影に襲われたこと、花子さんが助けてくれたこと……。
全部、子供の頃のうわさ話にあっただけのもので、本当にいるはずがないと思っていたことばかりだ。
レイコは、遠ざかっていく花子さんの後ろ姿を、ずっと見つめていた。
その時、教室全体が急に暗くなった。
窓から差していた光も、うすれていく。
この学校全体が、巨大な黒い影に覆われ始めていたのだ……。

屋上で、花子さんは、校舎を包み込むほどの巨大な影の怪物と向き合っていた。
やみの世界から大量にやってきて、散らばっていたカゲビトの群れが、この学校に集まって、一つに合体したのだった。
「ここはあなたのいる所じゃないのよ。さぁ、一緒にやみの世界に帰りましょう」
花子さんが説得するが、巨大に成長したカゲビトは聞こうとしない。
このまま放っておけば、さらに仲間を呼んで、今以上に大きくなってしまう。
そうなったら、もう手がつけられない。
「もう仕方ないわね……。幽霊しばりアップリケ!やみの世界に連れ戻しなさーい!」
暖かい光を放つアップリケが、カゲビトに向かって飛んでいく。
だが、巨大カゲビトは、それをものともせずに、はじき返した。
それどころか、アップリケの輝きが逆に新しい影を生み、そこから別のカゲビトが生み出されてしまう。
「どうしたら……」
影が大きくなっていき、花子さんは、じわじわと屋上の隅に追いやられていく。
その時、どこからか飛んできた青いリボンが、花子さんの近くにいたカゲビトの群れに巻き付いた。
カゲビトたちは空気にとけ込むように消えてしまい、後に残ったリボンが、風に乗って、よみさんの元に帰る。
「よみさん、来てくれたの?」
ホワホワちゃんが嬉しそうに言った。
「花子さんと勝負をするのは、この私。よみだけですのよ」
花子さんと、よみさんが並んで立った。
改めてアップリケとリボンを構えた二人に、巨大カゲビトが迫ってくる。
だが、すごい速さでぶつかってきたドクロのペンダントが、それをはばんだ。
「やみ子さん!」
花子さんが呼びかけた。
よみさんに加えて、やみ子さんも現れたのだ。
「花子と勝負するのは、このあたしだよ!」
命中したペンダントは、巨大カゲビトの体を吸収しようとするが、大きすぎて途中ではじかれてしまった。
しかし、これが効いたのか、カゲビトは少し小さくなったようだ。
三人がそろって、カゲビトと向かい合う。
「やみ子さん、よみさん。来てくれてありがとう」
「ふん、さっさとやっつけるよ!」
「あなたに言われるまでもないですわ」
アップリケ、ペンダント、リボンが、それぞれの手に握られている。
「幽霊しばりアップリケ!幽霊を、やみの世界に連れ戻しなさーいっ!!」
花子さんの合図と共に、ペンダントとリボンもカゲビトめがけて放たれる。
三つが同時に命中し、巨大カゲビトはボロボロと崩れるように消えてしまった。
学校は元通りになり、外はもう夜になっていた……。

あれから予定通り、取り壊しの工事が始まった。
レイコは、それを少し離れた所から見ていた。
学校が壊れていくのは、少し辛かったが、それでも最後の姿を見ておきたかったのだ。
あの時のことは夢だったのだろうかと思う。
うわさが本当だったなんて、とても信じられないことだった。
でも、それは、自分が出会わなかっただけかもしれない。
怖い体験だったが、不思議とレイコは穏やかな気分だった。
今でも、うわさのお化けや花子さんたちが、自分の知らない所にいるのだろうか?
消えてしまったように見えても、彼らは、またいつかどこかで姿を現すのだろう。
この学校がなくなっても、そこで過ごした思い出が消えないのと同じように。
レイコは、心の中で、そう思った――。

花子さんはどこにいるのでしょうか?
でも、花子さんに会えたということは、あなたの周りでコワイことがあったということです。
もしかしたら、会えない方がいいのかもしれません。
会えなかったとしても、花子さんは、きっとあなたの知らない所にいるはずです……。

[完]
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プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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