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第九章「予兆」―1―

木口は、喫煙所で安煙草を吹かしながら、物思いに耽っていた。
俺達はワームを倒して人を助けても、残された遺族の心までは救えない。
ああいう場面は何度見ても慣れない、嫌なものだ。
日本国内での行方不明者は、年間で10万件前後と言われている。
例の男は、その一人に加えられ、彼が消えることになった真相は、決して明かされることなく闇に葬られる。
これから、あの少年や、その家族はどうするのだろう。
男が帰ってくると信じて、待ち続けるのだろうか。
それを無意味だと知っていることが辛い。
何かしてやりたいが、何が出来る?
君のお父さんはもう帰ってこないよ、とでも言えというのか?
そんな事実を伝えたところで、悲しみを広げるだけにしかならない。
それに比べたら、いつか帰ってくるかもしれないという希望を持って生きている方が、よほど幸せだ。
そう、彼らのために出来ることは一つもない。
――分かっちゃいるが、やっぱり辛いな……。藤の奴も、あまり考え過ぎてなきゃいいんだが……。

「木口さん、お疲れ様でした」
たまたま喫煙所を通りかかった新堂が挨拶した。
「お疲れ。お互いに、今回も無事に帰れて何よりだ」
木口は笑って答える。
だが、先程のこともあり、それは普段より弱く、力のない笑みだった。
「あの……木口さん。ちょっといいですか?」
「ああ。まぁ、座れよ」
言って、木口は自分の隣を指し示し、煙草の火をもみ消した。
喫煙所なのだから別に消すことはないのだが、新堂は煙草を吸わないのだ。
「はぁ……」
座るなり、新堂は深いため息をついた。
「どうした?」
「昨日、例の物を渡せたのは良かったんですけど……さっきよく見たら、隊長、付けてくれてなかったんです」
「そりゃお前――公私混同は良くないとか、そういうのだよ。隊長は結構堅い所があるからな」
「そうでしょうか……」
「大丈夫だって。そう気にすることじゃないさ。多分、俺が渡しても仕事中は付けてなかったと思うぜ」
木口が励ましてやっても、新堂は沈んだままだった。
さっき、有沙に助けられたことが、心の片隅で、ずっと気になっていた。
一度悪い方に考え始めると、ネガティブなイメージばかりが、次々に浮かんでしまうものだ。
失望されてしまうのではないかという不安は、形を変えて、別の方向にも飛び火していった。
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研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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