スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『幽霊屋敷に遊びに行こう!!』その3

「ねぇ~。いいじゃん、メアド教えてよぉ~。そんなツレなくしないでさぁ~」
広い病室の中に、いくつか並んだベッドの内の一つ――そこに座を占めている男が、若い看護師を口説いている。
この光景が見られるのは、今日だけで既に五度目である。
――さっさと退院して出ていってくれないかしら。
話しかけられた件の看護師は、内心うんざりしながらも、職業柄それを表に出すことなく、スライド式のドアに手をかけ、事務的な動作で病室から出ていった。
「ちっ……。この俺に対して無関心を貫くたぁ、男を見る目がないねぇ。ただでさえ、辛気くせえ年寄りどもと一緒の部屋に押し込められて参ってるってのによ。老人ホームじゃあるまいし……」
身体のあちこちに包帯を巻いて、片方の腕をギプスで固定された川内航平は、ベッドの上で軽口を叩いた。
つい先日、藍沢祐樹と石神李依の両名に敗北した彼は、医者から全治一ヶ月という診断を下され、ここF市総合病院に入院しているのだった。
更に追い打ちをかけるように、老人たちばかりの相部屋に入れられてしまった彼の気分は、いいとは言えなかった。
なんでも、最近になって運び込まれる怪我人が増えており、ベッドが埋まっているそうだ。
「あ~あ……マジで勘弁して欲しいぜ……。ここにいるだけで、なんとなく老け込んじまうような気さえするしよ……。できることなら、もう退院してえな」
こうした状況に置かれている川内だが、祐樹から“死んでも直らない”という感想を述べられた通り、根本的な部分は全く変わっていなかった。
考えていることの大半を占めるのは、相変わらず金と女のことである。
したがって、先ほど看護師を追いかけ回していたことからも分かるように、その胸中に改心の意識など芽生えるはずもなかった。
ただ、初めてスタンド使いとの戦いを経験して、川内自身も反省していないわけではない。
もっとも、その反省というのは、“今度からは注意して相手を選ぼう”というものだった。
つまり、反省していようとしていまいと、どちらにせよ川内は懲りていなかったのである。
「あの看護師の姉ちゃんといい、全く世間は冷たいねぇ。どっかによぉ、俺と気持ちがバッチリ通じあってるような“イイ女”いねえかな。ま、できれば心だけじゃなくて、身体もグンバツなら言うことないんだけどよ」
枕元の週刊誌に手を伸ばした川内は、表紙を飾っている水着姿のカバーガールを眺めて言った。
大人びた顔立ちで、背中まで届く長い黒髪を下ろして微笑んでいる。
ページをめくると、表紙のモデルと同じ女性が、胸の谷間を強調したポーズで写っていた。
脇に小さく記されたプロフィールから、セクシー路線で売り出し中のグラビアアイドルらしいことが分かる。
半開きになった唇と、そこに引かれた真っ赤なルージュ――これらが一体となった気だるそうな表情が、なんとも言えず扇情的だ。
「乳もいいけど、やっぱ俺的には尻だな。程良い肉付きで、キュッと引き締まって、プリッと上がってるようなケツがいい。さっきの姉ちゃんは、どっちかっていうとオッパイの方に自信があるって感じだったな。ああ、そんな雰囲気だった」
そんなことを漏らす川内の背後で、ドアが開く音がした。
やはり気が変わって、さっきの看護師が戻ってきたのではないか。
どこまでも都合のいいことを考えながら、ベッドの上で上体を起こし、入口の方に振り返る。
その瞬間――川内の身体は硬直し、にやついていた表情は凍りついたように固まった。
なぜなら、そこに立っていたのが自分を病院送りにした張本人の一人だったからである。
ベリーショートの短髪を目が痛いほどの明るい金色に染めた、長身の女――石神李依だ。
二人の視線が、空中でぶつかり合った。
完全に逃げるタイミングを失った川内に、李依が近付いてくる。

「それ以上は近寄るんじゃあねえッ!もし一歩でも近付こうとしたら、あんたの顔面を即座にブッ飛ばすからな!手加減ナシの全力で“殴らせる”から、歯が折れるかもしれねえぜ。分かってんのかよッ!」
川内の威嚇を前にしても、李依は至って冷静なままだった。
スッと目を細めると、鋭く冷たい眼差しで返答する。
その眼光に射すくめられた川内は、背筋が寒くなるのを感じた。
李依の双眸からは、自分が決めたことは何があろうと成し遂げようとする“凄み”が伝わってきた。
まるで、それを妨げようとするなら容赦しないと言われているかのようだ。
ひどくあからさまで、言ってみれば底の浅い川内の恫喝とは全く違う、真実味のある無言の圧力だった。
「……ガタガタ騒ぐんじゃあないわよ。他の人の迷惑でしょう。私は、ただ聞きたいことがあって来ただけよ。別に、あなたを“殴り足りない”って訳じゃないから安心しなさい」
これを聞いた川内は、“逆らわない方が身のためだ”と思った。
身を以って李依の力を体験している川内にとって、彼女が発した言葉は、それだけ強烈だった。
それに、いくらなんでも入院中の怪我人を痛めつけるようなことはしないだろう。
また、病院内で騒ぎを起こせば、すぐに医者や看護師も飛んでくるはずだ。
しかし、用心深いことに自信がある川内は、まだ完全に気を許していなかった。
いつでも『ダーティー・フィンガーズ』を使えるように、心の準備だけは整えている。
――冗談じゃねえ……。全く恐ろしい女だぜ……。
「分かった、分かったよ。このザマじゃあ、俺に勝ち目はねえしな。ま、なんでも聞いてくれや。ここにいるのは耳が遠い年寄りだけだから、遠慮はいらないぜ。あぁ、俺のメアドが知りたいってんなら、いつでも大歓迎だ。ただし、それと引き替えに身体を触らしてくれるってのが条件だ」
「……どうやら入院期間を延ばして欲しいみたいね」
そう言った李依は、ゆっくりと右手を上げて、握り拳を作ってみせた。
彼女の姿が、記憶の中にある『ザ・プレイグス』と重なる。
先程の“殴り足りない”という台詞が耳に残っていることもあり、川内は慌てた。
「お、おいおい。マジで言ったわけじゃねえって。軽いジョークだよ。ちょっと場を和ませようと思ってさ――」
「言っておくけど、私は世間話をするために来たんじゃないのよ」
川内の言い訳を遮った李依は、そこで言葉を区切ると、いよいよ本題に入った。
「――あなたが持っている“スタンド”……つまり、その“能力”を手に入れた経緯。私が聞きたいのは、それよ」
川内にとって、“スタンド”という名称を耳にするのは、この時が初めてだった。
そして、自分の持つ“能力”が、そう呼ばれているものであることを知ったのである。
「それが……なんつうか、突拍子もない話でよ。信じてもらえるかどうか……。いや、あんたも“スタンド”を持ってるなら、もしかしたら同じかもしれねえな……」
そう前置きしてから、川内は話を始めた。
今から一週間ほど前のことだ。
人気のない場所で、盗んだ財布の中身を調べていると、いきなり背中に強烈な痛みが走った。
最初は、何が起こったか理解できなかったが、激痛をこらえながら首を回して確認すると、そこに古めかしい“矢”が突き刺さっている。
それが分かった途端に、全身から力が抜けて、意識が遠のいていった。
そして、目の前が真っ暗になる直前に、何者かの声が聞こえたという。
低い響きを伴う、聞き覚えのない男の声だった。
「おめでとう。あまり期待していなかったが、君には才能があったようだ。その能力を大いに活用してくれたまえ。そう、なんでも君の好きなことをするといい」
まるで心に直接語りかけてくるような、妙にハッキリと聞こえる声だったそうだ。
しばらくして目を覚ますと、痛みはウソのように消えており、それどころか傷すら見当たらない。
自分に特別な能力が身に付いたことを自覚した川内は、それを『ダーティー・フィンガーズ』と名付けた。
あとは、特に聞く必要はなかった。
“スタンド使い”になった川内航平は、自分の欲望を満たすために“スタンド”を利用するようになって、今に至る。
以上が、川内が語った“スタンド”を得た経緯の全てだった。
それを聞き終わった李依は、川内に“スタンド”をもたらした人物が、例の“矢の男”であると確信した。
目的は分からないが、なんらかの意図の下で、“スタンド使い”を増やしているに違いない。
だが、誰しもが“スタンド使い”になれるわけではなく、才能を持たない人間が射抜かれた場合は、そのまま死んでしまうのだ。
つまり、“矢”が使われるということは、誰かの命が奪われる可能性を含んでいるのである。
おそらく、こうしている間にも犠牲者は出ているだろう。
それを防ぐためには、この面影町に潜んでいると思われる“矢の男”を捜し出して、止める以外に手段はない。

「念のために聞くけど、その“矢の男”の姿は見ていないのよね?」
この質問にも、川内は首を振った。
「さっき言った通りさ。俺が知ってるのは声だけで、その他のことはサッパリだ。どういうヤツなのか見当もつかねえよ。ただ……」
そこで、川内は表情を変えた。
「俺もロクでなしの一人だからな。その関係で、ヤバいヤツは何人か知ってるが、あんたの言う“矢の男”は、そういう連中とは“ヤバさ”が違うんだ。うまく言えないが、底が知れないっていうかよ……。言っちゃあなんだが、長生きしたかったら、あんまり関わらない方がいいと思うぜ」
「……分かったわ。ありがとう」
手短に礼を言うと、李依は入口に向かって歩き出す。
ベッドに横たわり、彼女の後ろ姿を目で追っていた川内は、再び口を開いた。
「俺の話を聞いてなかったのかよ」
「聞いたわよ。あなたが教えてくれたんでしょう」
ドアの前で立ち止まった李依は、振り向くことなく答えた。
彼女の行動が納得できない川内は、更に続けて言う。
「そういうことを言ってるんじゃない。俺は忠告してんだぜ。あんた、まだ“矢の男”に関わるつもりなんだろ。せっかく特別な“能力”を手に入れたんだから、それを使って楽しく生きりゃあいいじゃねえか。わざわざ危険に首を突っ込んで、なんか得があるのかよ?」
李依は何も言わない。
先程と同じ姿勢のままで、川内の言葉を聞いているだけだ。
「説教するつもりはないけどよ、人間ってのは結局のところ、自分のことで精一杯の生き物なんだよ。みんなそうだし、それは別に悪いことじゃない。なんで、あんたはそこから外れようとするんだ?もし、“矢の男”をどうにかできたとして、謝礼に金一封がもらえるわけでもねえし、誰も感謝なんてしてくれないだろうぜ。あんたの顔や身体に傷が付くだけ損だ。だろ?」
そう言いながら、川内は起き上がった。
「そうね……。確かに、あなたの言う通りかもしれないわ。でも、見過ごすわけにはいかないのよ。それに――」
振り向いた李依は、川内と正面から向き合った。
彼女の瞳の奥には、何者にも動かされない強い意志の光が宿っている。
「これは、私が決めたことだから。それが理由よ。“矢の男”は必ず止める」
力強い言葉を残して、李依は病室を出た。
何も言えなかった川内は、ただ呆然とたたずんでいる。
心なしか、先程までと顔付きが変わったようにも見える。
なんとも信じ難いことだが、李依の放った一言が、川内航平の心に一石を投じたのである。
――ただ強いだけじゃねえ……。自分が決めたことは、何がなんでもやり抜こうっていう心意気を持ってる。なんだよ、これこそ最高に“イイ女”じゃねえか……。決めた!この川内航平は、これからあんたについていくぜ!
こうして、ベッドの上の川内は、ひそかに李依の舎弟になることを誓うのだった――。
スポンサーサイト
プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
現在時刻
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。