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焼却炉の少女

かつて少年チャンピオンで連載されていた、あるホラーマンガの中で、個人的に好きなエピソードを、自分なりにアレンジして文章化してみました。
一話完結式のマンガ作品で、本来はちゃんとした主人公がいるのですが、その辺りは省いた上で、話の骨子だけを抽出しています。
以下にBGMを用意しましたので、もしよろしければ併せてどうぞ。






一人の中年女性が夜の学校を訪れた。
電話も通じず、なかなか帰ってこない高校生の娘を心配して捜しに来たのだ。
季節は日照時間が短くなり始める秋――既に午後七時を過ぎていることもあり、教室の明かりは全て消えている。
暗くなった校庭を見渡すが、人影らしいものは見えない。
その時だった。
「あら?」
女性は思わず声を上げた。
さっきまで誰もいないと思っていた校庭の隅で、何か動いたような気配を感じたのだ。
もしかしたら娘の同級生かもしれない。
そう考えた女性は、誘われるように人影の後を追った。

行き着いた先は、校舎の裏手にある焼却炉だった。
その前に、学校の制服である黒いセーラー服を着た少女がうずくまっていた。
長く伸びた黒髪が、背中の辺りまで垂れている。
立ち止まった女性は、彼女に声をかけた。
「あの、ちょっと」
「はい」
対する少女は、女性に背を向けたまま、振り向きもせずに応答した。
今の時間と相まって、何となく不気味に感じられたが、気にすることではないだろう。
まさか幽霊ということもあるまい。
少女の近くまで歩み寄った女性は、娘を知っているかどうか聞くことにした。
「A組の和泉景子を知りませんか?」
「私と同じクラスですけど……」
妙に抑揚のない声だが、ちゃんと生きている人間のようだ。
安心した女性は、更に尋ねた。
「それじゃ、まだ学校にいるんですか?」
「いいえ。もう校舎には誰もいません」
この地区は、市街地から離れているため、若者が遊べるような場所は、それほど多くない。
学校にいないとすると、友達の家にでも寄っているのだろうか。
盛り上がっている間に連絡を忘れるというのは、十分に考えられることだ。
以前にも似たようなことがあったが、帰ってきたら注意しておかなければ。
しかし、女性の考えをよそに、少女は意外な言葉を口にした。
「景子さんの居場所は、私が知っています」
「まあ、どこにいるんでしょう」
「でも――その前に私の話を聞いて欲しいんです」
「え?」
「あれは、一週間前のことでした……」
黒髪の少女は呟くように語り始めた……。

二年A組の和泉景子は、整ったルックスと均整のとれたスタイルを合わせ持ち、中学生の時から評判の美少女として知られていた。
景子自身も、それを知っており、まさしく自慢の種であったが、高校に進学してからの彼女を取り巻く状況は、それを助長させた。
周囲は彼女をもてはやし、ちやほやされ続けた景子は、いわば当然の流れとして、自分の美貌を利用するようになっていく。
ある時は猫なで声で甘え、また言い寄ってくる男子を顎で使うような振る舞いをする彼女は、同性から敬遠された。
だが、そういった反応は、景子にとってどうでもいいことだった。
そのようなものは、自分に自信がなく、情けない人間の戯言だと考えていたからだ。
しかし、その華やかな学校生活にも、遂に陰りが差すことになった。
隣の県にある学校から、一人の少女が転校してきたのである。
「今日は、みんなに新しい友達を紹介する」
担任教師の横に立つ少女が頭を下げた。
絹のように艶やかな黒髪を持つ、奥ゆかしい雰囲気のある少女だった。
大きな瞳と繊細な睫、筋の通った高い鼻、形の良く薄い唇――それらが見事に噛み合った美しい顔立ちだ。
「黒木理彩といいます。どうぞ宜しくお願いします」
彼女を見た生徒達は、教師に聞こえないように小さな声で口々に感想を言い合った。
「すげー綺麗じゃん」
「うん、可愛い」
「なんていうか、品があるって感じしない?」
「お嬢さんっぽいね。良い家に住んでそう」
景子は、それらの意見を鼻で笑った。
――私には平凡な顔にしか見えないわ。あんな子、どこにでもいるじゃない。それに、よく見るとニキビやソバカスだらけに決まってる。
しかし、事態は景子の考えとは裏腹に進んだ。
どちらかといえば派手な印象の景子とは異なり、気品と神秘的な魅力を備えた彼女は、男子だけではなく女子からも好かれるようになり、転校して二日も経つ頃には、クラスで最も注目される存在になっていた。
頭が良く、運動神経も優秀でありながら、それを鼻にかけることもなく、誰に対しても優しく接する理彩は、まさに理想の少女だった。
だが、景子は面白くない。
八面六臂の活躍を見せつけられると、今まで抱いてきた自信が、哀れな幻に過ぎないと言われているような感覚さえ覚えた。
ずっと自分が一番だと思ってきた彼女にとって、理彩は鬱陶しい邪魔者でしかなかった。
自分の方が上であることを証明する為に、必死で理彩を追い越そうとするが、どうしても彼女に勝つことが出来ない。
その腹いせに、理彩を誹謗中傷するような噂を流したが、彼女は全く動じないばかりか、皆が同情したことがきっかけとなって、その評価は下がるどころか学年を越えて高まるばかりだった。
靴を隠したり、教科書やノートをズタズタに切り裂き、精神的に参らせようともしたが、相変わらず理彩は平気な顔をしている。
その態度には苛ついたが、何よりも腹立たしかったのは、理彩の顔だ。
認めたくはないが、確かに彼女の顔は美しい。
――もしかしたら、私より綺麗なのかも……。
それを考える度に、景子の心は激しく乱され、あれほど強かった筈の自信は脆くも崩壊していった。
これが他の事だけなら、まだ許せた。
だが、少なくとも同じ学校の人間に顔で負けるのだけは、どうしても我慢ならない。
こうして徐々に追い詰められていった景子は、とうとう使ってはいけない最後の手段に訴えた。
「ごめんね、理彩。遅くまで手伝わせちゃってさ」
ボーイッシュな短髪の少女が理彩の肩を叩いた。
学級委員の亜紀だ。
「いいの、気にしないで。私も、この学校のこと、よく知りたいし」
理彩は、そう言って微笑んだ。
亜紀も笑って、鞄を肩にかけた。
「そっか。じゃ、一緒に帰ろう。帰りに何か奢るから」
「ええ。今日は風が冷たかったわね」
「嫌になるよねー。身体は冷えるし肌は荒れるし。あ、ちょっと待って。外に出る前に保湿クリーム塗っとくから」
「ふふ。私も、そうするわ」
恐ろしい変化が起こったのは、すぐ後だった。
両手で顔を覆った理彩が、苦しげな叫び声を上げたのである。
驚いた亜紀は、急いで彼女を保健室に連れていった。
理彩が持っていた化粧水の中に劇薬が混ぜられていたのだ――。

「――そうです。誰かが、中身をすり替えていたのです」
少女の話は、ここで終わった。
それを聞かされた女性は、何を言うべきか言葉に詰まった。
しかし、ふと頭に浮かんだことがあった。
「ま……まさか……」
「そう、犯人は和泉景子さん」
そこで初めて少女は立ち上がり、自分の顔を女性の方に向けた。
同性でも見惚れる程に美しい容姿だったが、ひどく無表情だ。
また、長い前髪が左半分を隠している。
しかし、それが単なるヘアスタイルでないことは、すぐに分かった。
次の瞬間、少女の表情が変わったのだ。
固く唇を結んだかと思うと、両目に激しい憎悪の炎を燃え立たせて髪を払いのける。
「よく見てみなさい!私の顔を!!」
「ひっ!!」
その剣幕と、現れたものを見た女性は、たまらず悲鳴を上げてしまった。
美しい少女の顔――先程まで髪に隠れていた部分は、まるで肖像画の上を濡れたスポンジで擦ったかのように、醜く爛れていたのである。
一人の人間の顔に、目に見える美醜が同居している様は、ある意味では象徴的と言えるかもしれない。
しかし、女性に出来ることは、ただ慄くことだけだった。
「今――私が、どんな気持ちでいるか、分かりますか?」
少女――黒木理彩は、再び焼却炉に向き直った。
その扉を開ける。
すると、中に何か白いものが見えた。
細いものもあり、太いものもあった。
それが何本も転がっている。
「あ、あなた……!それは……!!」
理彩は肩越しの視線を女性に投げかけた。
胸を刺すような冷たい眼差しだった。
「景子さんは、私の顔を、こんな風にしてしまったのよ。当然の報いでしょう」
それを聞いた女性は、顔を真っ青にして学校の敷地から一目散に逃げ出した。
しばらくして、複数の足音が校庭を突っ切って、焼却炉の前にいた理彩に近付いてきた。
近くの交番から駆けつけた警官を伴って、先程の女性が戻ってきたのだ。
「お巡りさん、何かあったんですか?」
髪を元に戻した理彩は、取り乱した様子もなく、平然としている。
さっき女性が目撃した、ぞっとするような恐ろしさは、微塵も感じられない。
「きみ、ちょっと来たまえ」
警官が理彩の腕をとったが、彼女は依然として落ち着いていた。
「私は何も悪いことはしていません。先生に言われて、古くなった模型を処分していただけです」
二人の警官が焼却炉を調べたが、そこにあったのは、確かに人間の骨格模型だった。
彼らは納得したらしく、女性に声をかけた。
「――奥さん。お嬢さんは、やはり友達の家で遊んでいるんでしょう。今頃は、お宅に帰っているかもしれませんよ」
「近頃の学生は何を考えているのか……。全く、人騒がせにも程がある」
理彩以外の三人は、そう言いながら校門から出ていった。
それを確認した理彩は、うっすらと唇を歪めると、どこかに歩き出した。
体育館の隣にある倉庫――その扉が開かれる。
そこにいたのは、両手を縛られ、ガムテープで口を塞がれた和泉景子の姿だった。
「これで――もう誰も、あなたを助けにこないわ」
連れ出された景子の前に、怪物を思わせる焼却炉が、大きく口を開けていた――。

二日後、黒い髪の少女が歩道を歩いている。
その後ろから、誰かが走ってきた。
少女が振り返る。
その顔は、誰が見ても賛辞を述べたくなるくらい、文句なしに美しいものだった。
「おはよっ、理彩」
笑顔で挨拶する亜紀に、理彩も穏やかに微笑み返す。
「おはよう、亜紀」

[完]



『エコエコアザラク』第二巻「ミサのいけにえ術」より
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プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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