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打ち寄せる波は砂の城を崩す―その7―

正直言って、李依は、あまり良い気がしなかった。
この廃墟の“殺風景さ”が、自分のいた刑務所を彷彿とさせたからだ。
だが、行かない訳にはいかない。
間違いなく、ここに彼がいる。
それも震えながら逃げ隠れる為ではなく、私と闘う為にだ。
思えば、『スタンド』を出す直前の行動――そして、遂に『スタンド』を発現させた彼の眼差しからは、ただ逃げようとする消極的な姿勢とは違う、立ち向かおうとする強い意志が感じられた。
恐らくは、正面からぶつかることを避けて、身を潜めながら隙を伺い、不意を突いて攻撃しようというのだろう。
その判断自体は悪くないと思う。
奇襲を確実なものにするのに、最も隠れる場所が多いであろう、この廃墟を選んだのも納得出来る。
ともかく、面と向かっての直接対決ならば、こちらが圧倒的に優勢なのだ。
攻撃を食らってみて分かった。
彼の『スタンド』のスピードは、『プレイグス』と同程度だが、パワーの方は、せいぜい人間並みといった所だろう。
破壊力では、こちらの方が上だ。
もっとも、パワーとは関係なく、一発でも殴ることが出来れば、『ザ・プレイグス』の“能力”によって、そのまま畳み掛けてしまえるのが、こちらの強みだ。
そして、土地不案内な私よりは、あの少年の方が、この場所には精通しているのではないかと思う。
彼が私を振り切って、迷うことなく、ここまで逃げてこられたことからも、それは予想出来る。
“鉄パイプの束”を使って時間稼ぎをしたことにしても、それがあることを最初から知っていたから、あれだけスムーズに実行出来たのではないか?
だとすれば、この無愛想極まりない残骸の内部まで把握しているとしても、さほど不思議ではない。
彼自身も、地形に対する知識という点に関しては、“敵”である私にとって不利な要素であると考えているに違いない。
あるいは、自分が有利な場所に上手く引き込めたと感じているかもしれない。
しかし、それは“誤り”だ。
あの子は気付いていないだろう。
もしくは、“忘れている”と言うべきか……。
確かに私にとって、この廃墟は不利な舞台ではある。
ところが、同時に有利な場所でもあるのだ。
私は、自分の“能力”を、よく理解している。
どのような場合に最大限の力を発揮出来るのかを知っている。
だからこそ、より有利な立場を得られるのは、むしろ私の方なのだ。
しかし、“油断”してはいけない。
いくら相手が“素人”だと分かっていても、彼が明確に闘う意志を見せた以上、私も認識を改めてかかる必要がある。
そう、『スタンド使い』は“敵”なのだ。
少年にとって李依がそうであるように、李依にとっても少年は“敵”だった。
――『スタンド使い』を止められるのは『スタンド使い』だけ……。
『矢の男』が残した言葉が頭の中で反響する。
同じ『スタンド使い』であり――更に“能力”まで知られている以上、私から自由を奪える可能性のある人間を黙って見逃すことは断じて出来ない。
彼を“砂”に変えて、私は逃げ延びる。
誰の手も届かない何処か遠くへ逃げて、“自由”を守り通す。
こうなったら、偽名でも整形でも何でもしてやる。
願うことが許されるなら、どうか再び、あの日々に戻りたい。
その為に私は闘う。
李依は、周囲に気を配りながら、慎重に廃墟の中を進んでいく――。

――くそっ、なかなか隙を見せないな……。やっぱり警戒されてるのか……。
およそ10m離れた物陰から李依の背中を覗き込んだ少年は、出ていくタイミングを計りかねていた。
長い直線の通路の中程に李依が、その突き当たりを曲がった所に少年が、それぞれ位置している。
――ここから近付いて攻撃しようとすれば、確実に見つかるだろうな……。そうしたら、また後手に回らなくちゃあいけなくなる。
李依が想像した通り、少年にとって、ここは慣れた場所だった。
小さい頃は恰好の遊び場の一つだったのだ。
何処がどうなっているのかは、あらかじめ知っている。
だからこそ、一ヶ所に隠れて待ち受けていると思わせて、このように距離をとりながら常に張り付いて様子を見るという作戦を選んだのだが、これは失敗だったかもしれない。
さっきから、仕掛けようとする度に感づかれそうになり、攻撃を中断せざるを得なかったのだ。
ここに誘い込む所までは上手くいったと思ったのだが、このままでは一向に埒が明かない。
――こうなったら、“この手”しかない!
積極的に攻めることを考えた少年は、早速その案を実行した。
壁際から顔を出して床を強く踏み、わざと音を立てる。
李依は予想通りに振り返ってくれた。
二人の視線が空中でぶつかり合う。
それを確認し、“しまった”というような表情を作った後、次の角に向かって急いで駆け出す。
自分以外の足音が聞こえることから、彼女も後を追い始めたらしい。
――よし、引っかかったッ!そのまま追ってこいッ!
靴の底を滑らせながら、勢いよく左折する。
目的の位置――角の向こうに到着すると、『ボトム・オブ・ザ・トップ』を解き放って攻撃態勢に入った。
――さぁ、何も知らずに曲がってこい……!そこからちょっとでも出てきた瞬間、出会い頭の先制でブッ飛ばしてやるッ!
息を押し殺した少年は、女が来るのを待った――。
時間は刻一刻と過ぎ去っていく。
しかし、どういう訳か、まもなく10秒が経過しようというのに、女は姿を見せない。
それだけではなく、さっきから気配が全く感じられない。
建物の中は、気味が悪い程に静まり返っている。
――おかしい……。いくら、なんでも遅すぎる。まさか――。
不審に思った少年は、そっと通路を覗き見た。
そこには、誰もいなかった。
隠れられるような脇道はないし、少なくとも途中までは追ってきていたのだから、この通路を後戻りしたとしても時間が足りない。
第一、そんなことをする理由が不可解だ。
こちらの意図を悟られたにしても、何処へ行ったというのか……。
「消えた……!?まずいぞ……!一体、何処に……」
嫌な予感がして後ろを確認するが、やはり異常は見当たらない。
再び前方に視線を移した時、突如として天井がブチ抜かれ、『ザ・プレイグス』を発現させた李依が落下してきた。
『プレイグス』は、既に殴りかかる態勢に入っている。
下にいた少年めがけて、そのまま腕を大きく振り降ろした。
だが、これは李依にとっても変則的な戦法だった。
加えて、ここが初めて訪れた場所であり、また上からでは少年の居場所を大まかにしか把握出来なかったことが災いし、僅かに狙いが外れてしまった。
その為、文字通り風を切って繰り出された鉄拳は、辛うじて顔を掠めるにとどまった。
少年の頬から、流れる血を思わせるような一筋の“砂”が零れて風に散った。
「うッ……上からッ……!そ、そうか……!」
そこに至って、少年は、そもそも李依が最初にどうやって現れたのかを思い出した。
彼女は、鉄のフェンスを破って――正確には“砂”に変えて侵入したのではなかったか。
つまり、『ザ・プレイグス』は接近戦だけではなく、“奇襲”にも向いている『スタンド』なのだ。
――完全に忘れてた……!壁や天井を“砂”に変えれば、こんな風に何処からでも出入り自由って訳だ。材質がコンクリートだろうがダイヤモンドだろうが何の問題もなく……。ヤバいな……“奇襲”するつもりが、されたのはこっちの方じゃないか……。屋内に逃げ込んだのは“不正解”だった……!
急に消えたのも、手近の壁を“砂”に変えるなりしたのだろう。
視界が限られる屋内は、『プレイグス』にとって有利なフィールドだったのだ。
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プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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