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第九章「予兆」―6―(前編終了)

「……待ってくれ!」
芹沢が立ち止まる。
「なんです」
電気のスイッチを切って、背中越しに振り向く。
返事をした声は、ぞっとする程に冷たい響きを持っていた。
「……俺の命をくれてやる。俺を……俺をワームにしてくれ……!」
悩んだ末の結論だった。
死ぬのは怖い。
だが、何も変えられないまま、人間として生き続けることに何の価値がある。
あの女に追いつき、追い越すためには、やはりこれ以外にない。
――ワームとして生きる。それでいいではないか。
人という、ちっぽけな生物的枠組みに囚われて、先へ進めなくなることこそ愚かと言うべきだ。
奴がライダーとなって超人に変わるなら、俺はワームとなって人を超えてやる。
どちらにせよ、最初に話を持ち掛けられた時に断れなかった時点で、魂は売ってしまっていた。
後には引けない。
そう、しばらく眠るだけだ。
すぐに終わる。
ただそれだけで、望んでいるものが全て得られるのだ。

芹沢が東に向き直り、ずっとかけていたサングラスを外す。
その瞳は、レンズと同じ緑色だった。
姿が変わっていく。
白銀色の成虫体――地球のオニヤンマに似た性質を持つ『シーボルトワーム』だ。
「それが賢い選択です」
ワームの言葉を聞いて、東は目を閉じた。
体から一切の力が抜ける。
彼の意識は、吸い込まれるように、底のない闇の淵へと消えていった。
明かりが消えた部屋で、シーボルトワームが、倒れた東を見下ろしている。

「さようなら、東慎。そしてようこそ、我々の世界へ……」
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第九章「予兆」―5―

「そう。あなたには無理です。そして、分かってはいるが認めたくはない。だから取ることが出来ない」
芹沢は容赦なく、矢継ぎ早に指摘してくる。
この場の流れは、今や完全に彼の支配下にあった。
反論することもせず、東は押し黙った。
「ですが……打開策が一つだけあります」
人々に希望を与える教祖のように芹沢が言った。
東の目が、彼の顔を見た。
すがるような視線だった。
方法があるというなら何でもいい。
待っていても状態が好転しないなら、この際、それに乗るしか道はない。
「俺は、どうすればいい……」
「あなたも我々の仲間になればいいのですよ。人間としての生を捨て、ワームとして生まれ変わるのです」
「なんだと!?」
「驚くことはありません。そして資格者に擬態すれば、あなたはザビーにもドレイクにもなれる。記憶を完全にコピーした存在がいたならば、それは本物のあなた自身と同じことではないですか?」
つまり、芹沢は自分に死ねと言っているのだ。
――馬鹿な。そんなことが出来る筈がない。
死ねと言われて死ぬ者などいるものか。
第一、自分が命を落とした後で、この男が約束を守るとは限らない。
馬鹿げている。
選択にもならない提案だ。
心ではそう思っていても、東は迷っていた。
苦悩の表情で、下ろした拳を握りしめる。
手の平に、ぐっと爪が食い込む。
――本当に、それしか方法がないのなら……。

「私は全てを力で解決しようとする姿勢を好みません。無理にとは言いませんよ。ここで契約を破棄したいと言うなら、それも結構です」
東の横を通り過ぎ、芹沢が部屋を出ていこうとする。
「ただし、あなたは一生負け犬のままです。その方が、一瞬の死よりも、よほど恐ろしいことだと思いますがね」
去り際の言葉が、東の胸に突き刺さる。
おじけづいている自分を蔑むような口調だった。
所詮は小物だったか、と言われているようだ。
脳裏に藤有沙の顔が浮かび、その顔が、芹沢と一緒になって自分の事をせせら笑った。
それをきっかけにして、とうとう東は決意した。

第九章「予兆」―4―

「これは……。ドレイクがやられたとは聞いていたが、お前だったのか……」
東の目が、グリップに引きつけられる。
ザビーではないが、これもライダーの大いなる力を秘めたものには違いない。
思わず手を伸ばそうとしたが、途中で思いとどまった。
「……いや!俺が欲しいのはザビーゼクターだ。ドレイクになっても隊長にはなれん。約束が果たせないというなら、契約はここまでにする」
ザビーゼクターのことはひとまず置いておいて、ここでドレイクグリップを受け取ったとしても、損をすることはない。
しかし今の彼は、力を得ることよりも、有沙を失脚させることの方に執着し始めていた。
日に日に募っていく怨恨が東の心を歪ませ、手段と目的が入れ替わっていたのだ。
あの女の取り澄ました顔を蹂躙し、自分の足下に跪かせてやりたい。
愛と憎しみは表裏一体というが、ある意味では有沙に対する東の強い感情は、愛に近いものだったのかもしれない。
それに、グリップを受け取るのを躊躇う理由が、彼にはもう一つあった。

「これはお気に召しませんか。仕方ありませんね。――ところで」
芹沢は肩を竦めて、再びグリップを懐にしまった。
「この辺りで下らない遊びは止めて、現実を直視してはいかがですか?」
話が移るとともに、声の調子が、がらりと一変した。
有無を言わせない迫力を持った凄みのある声だ。
「なに?」
「仮にザビーゼクターを入手しても、あなたには使えないということですよ」
芹沢が立ち上がる。
椅子から離れて、窓の方に歩いていく。
眼下に、行き交う人々が見えるが、この内の何人が本当の人間なのだろうか。
「自分でも分かっているでしょう。あなたはザビーにはなれない。もちろんドレイクにもなれない。それを認めたくないから、ゼクターを手に入れることばかりにこだわって、最も大事な部分から目を背けている」
東は、芹沢の背中を睨みつけた。
「ふざけるな!!ゼクターさえあれば俺は……」
「なら、今ここで変身してみせて下さいよ。出来るのでしょう?」
振り向いた芹沢が、ドレイクグリップを東に突き出した。
東は、それを見つめるが、いざ出されると、取ることが出来ない。
もし変身出来なければ、資格者の資質がないことがはっきりしてしまう。
ドレイクとザビーでは必要とされる資質が異なるにせよ、それを認めるのが恐ろしかった。
隊長代理から降ろされた時の記憶が、まざまざと蘇る。

第九章「予兆」―3―

「――私は元気よ、大丈夫。うん、義父さんも体に気を付けて……」
有沙は、義理の父の狭山と、電話で話していた。
工場での戦闘から帰還した後、プライベート用の携帯電話にかかってきたのだ。
離れて暮らしている有沙を心配して、狭山からは三日に一度は必ず連絡がある。
いつも二言三言程度で、決して上手い言葉ではなかった。
それでも義理の娘を想う気持ちは十分に伝わる内容だった。
57歳になった狭山徹は、前線での任務を退いている。
いくら鍛えられているといっても、人間であるからには、老いによる衰えには勝てない。
その上、二十年以上の間、戦闘員として働いてきた狭山の体は、表面的な傷だけでなく、内蔵にも大きな負担を負ってしまっていた。
現在は、実地での豊富な経験を生かして、ZECT管轄下にある養成所の教官として、ゼクトルーパーの育成に専念している。
年齢的に、そろそろ定年も近い。
長く前線に立ってきていながら、今日まで生き延びてきた狭山は、非常に優秀な戦闘員だったと言えるだろう。
「じゃあ、今度は私がそっちに行くから。久しぶりに顔も見たいし……。ええ。それじゃ、また」
一通りの会話を終えて、有沙は電話を切った。
すると、今度は仕事用の携帯が鳴った。
二回目の呼び出し音が途切れる前に、通話ボタンを押す。
「はい。……分かりました。すぐに参ります」
加賀美が保護した男から、ワームに関する情報が引き出せた。
それを踏まえて、今後の動きについて会議をするのだという。
有沙は、ローヒールパンプスの踵を響かせて、足早にミーティングルームへ向かった。

夜。
街の一角にある雑居ビルの一室に、二人の男がいた。
一人は東、もう一人はサングラスの男だ。
机を挟んで、その両側に置かれた、簡素なパイプ椅子に座っている。
蛍光灯の明かりが、さほど広くない室内を照らしている。
「まだ手に入れられないのか。今日中という約束だった筈だぞ!」
椅子から立ち上がり、机の上を思い切り叩いて、東が怒鳴った。
ZECTやシャドウ隊の機密情報と引き替えに、ザビーゼクターとライダーブレスを有沙から奪い、譲渡する。
東と男との間には、そういった密約が成されていた。
前回行った取引は第一段階に過ぎない。
取引をする上で、互いに信用出来る相手かどうかを試す意味もあった。
その為に東は、かなりの金額を吹っ掛けたのだが、この芹沢という男は、要求通りの額を用意してきた。
よって取引は次の段階に進展し、東が希望する品を実際に手に入れた時に、更にレベルが上の情報を引き渡すことになっていた。
「昼間、奴は一人でいた。絶好の機会だったんじゃないのか」
「私もそう思ったのですがね。あいにく邪魔が入りまして。代わりという訳ではありませんが、手土産を持参しましたよ」
芹沢が懐に手を入れ、何かを取り出した。
それを東の目の前に差し出す。
ドレイクゼクターを呼び、変身するためのドレイクグリップだった。

第九章「予兆」―2―

「それにしても、ライダーの力は凄いですよね」
新堂が言った。
「だな。あれこそ百人力だ。お陰で、俺達も随分と助かってる」
木口も同意した。
マスクドライダーの活躍ぶりは何度も見ているが、その度に思う。
多くのサナギ体、そして強力な成虫をも、たった一人で打ち倒していく戦闘力は圧倒的だ。
百人力と言ったが、これは比喩ではなかった。
もしゼクトルーパー百人を集めたとしても、ライダーには太刀打ち出来ないように思えた。
木口や新堂らを含めた戦闘員も、よく戦っているとはいえ、彼らの力はライダーの足元にも及ばない。
「……もし自分がライダーになれたらって、考えたことないですか?」
「そりゃあるさ。あれを見た人間なら、誰でも一度は思うんじゃないか?ま、無理な話だけどな」
「なんて言うか……自信なくしちゃって。ライダーがいれば、ゼクトルーパーなんていなくても……」
そこまで言って、新堂は自分が言ったのが木口も指す言葉だと気付いて、慌てて謝った。
「す、すいません!」
「気にすんな。例えば……」
木口は、少し考えてから続けた。
「ライダーは数が少ないだろ?いくら強くても、同時に離れた所には行けない。そこで俺達の出番だ。さっきだって、俺達がいなかったら、ワームを逃がしてたかもしれない。ライダーがいれば万事解決って訳じゃないのさ」
「なるほど……。そう……ですよね」
新堂は一応納得した。
能率的かつ素早く、ゼクトルーパーを広範囲に展開し、最も戦闘が激しい場所にライダーを配置する。
このように電撃的な制圧作戦は、ZECTの基本戦略の一つだ。
通常の哨戒、偵察任務などと同じく、ゼクトルーパーがいなければ成り立たない。

「まあ、考えてもどうしようもない事ってのはある。お前も、あんまり悩み過ぎてると持たなくなるぞ」
新堂の肩を叩きながら、木口が忠告した。
考えるのは大事だが、程度というものがある。
度が過ぎると、抜け出せなくなって、ろくなことにならない。
――何事も、程々が大事だってことさ。
新堂の姿に昔の自分を重ねた木口は、過去を思い出していた。
力不足による不甲斐なさが嫌になったことは、今までに何度もあった。
特に、身近にいた有沙の存在が、彼に、それを痛感させたのだ。
有沙は、義理の父から綿密な手ほどきを受けている。
生来の運動神経も良く、戦闘においては男の自分よりも優秀だ。
一般隊員として同じチームに所属していた頃から、彼女は肩を並べようとしても常に上を行ってしまう女だった。
その背中に追いつけない自分に嫌悪を感じ、方向違いの嫉妬心を抱いていた経験もある。
しかし、それはもう終わったことだった。
悩んでいる内に“俺には追いつけないんだな”と悟った。
有沙がザビーになったのを知った時も、悔しさは微塵もなかった。
俺には、俺にしか出来ない事がある。
それを精一杯やろうと決めたからだ。
プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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