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「留守番電話」

七件のメッセージがあります。

――七時三十二分です。
「私、メリーさん。今、あなたの部屋の前にいるの」
――七時三十七分です。
「私、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの」
――七時四十五分です。
「私、メリーさん。今、バス停にいるの」
――八時十三分です。
「私、メリーさん。今、駅の前にいるの」
――八時二十六分です。
「私、メリーさん。今、電車の中にいるの」
――九時四分です。
「私、メリーさん。今、とても遠い所にいるの」
――十二時十一分です。
「――私、メリーさん。今まで……ありがとう……」

私が家に戻った時、そこにいるはずの少女――美しい金髪と青い目の彼女は、もうどこにもいなかった。

[完]
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「生と死の狭間」

今の仕事――タクシーの運転手を始めて四年目の秋頃に、奇妙な客を乗せたことがある。
普段は駅前や繁華街で客を拾うのだが、その夜は不思議と調子が悪い。
そこで、気分転換を兼ねて、賑やかな表通りから外れた道を走ってみることにした。
しばらく流していると、街灯の下に誰かが立っているのが見えた。
白い服を着て、片方の腕にバッグを提げた、髪の長い女性だった。
よく見ると、彼女は空いている方の手を上げている。
言うまでもないことだが、私は車を止めて彼女を乗せなければならない。
ただ、正直に言って、内心では少し躊躇いがあった。
それというのも、最近になって現れるようになったという幽霊の話を、三日ほど前に同僚から聞いていたからである。
しかも、その幽霊というのが、今まさに前方にいる女性と同じような姿をしているらしいのだ。
つまり、白い服を着てバッグを提げた髪の長い女の幽霊である。
――まさか、あれがそうなのか?
馬鹿げているとは思いながらも、頭に浮かんだ考えを振り払うことができず、思わず緊張したのを覚えている。
深夜の寂しい裏通りということもあって、どことなく信憑性があるような気がした。
しかし、そういっても客は客だ。
ただ気味が悪いという理由だけで乗車拒否していては、商売にならない。
それに、似たような格好の女性など、いくらでもいるではないか。
私は自分を納得させ、車を停車させた。

「――までお願いします」
ごく普通に行き先を告げられたので、私は警戒を解いた。
年齢は大学生くらいだろうか。
見方によっては高校生にも見える若い女性で、当たり前といえば当たり前だが、特に不審な点は見当たらない。
ひそかに私が安心していると、彼女の方から話しかけられた。
「運転手さんも大変でしょうね。色んな人を乗せるんだから、中には扱いに困るようなお客さんもいたりするんでしょ?」
気さくな話しぶりだった。
「ははは、そうですねえ。そういうこともないわけじゃありませんよ。例えば――」
すっかり落ち着いた私は、そう前置きしてから、仕事中に経験したことを二つ三つ話したのだった。
酔っ払いに手こずった話をした時には、彼女は面白そうに笑っていた。
そこまでは、特にどうということもなかったのである。
「ところで運転手さん、こんな話を知ってますか?」
私の話が終わったところで、彼女が口を開いた。
「はい、なんでしょう?」
私が返事をすると、彼女は声の調子を落として続ける。
「この辺りに、女の人の幽霊が出るらしいっていう噂ですよ……」
その言葉をきっかけにして、あの嫌な緊張感が蘇ってきた。
しかし、あくまで私は平静を装うことに決めていた。
「はあ、そうなんですか」
わざと気のないような返事をして、自分の心に生じた恐怖心を否定しようとする。
すると、彼女は話を途中で止め、黙り込んでしまった。
車内に沈黙が続く。
もしかすると、自分のせいで気を悪くさせてしまったのだろうか。
そうだとしたら、何か言った方がいいのではないだろうか。
そう考えて、声をかけようとした時、彼女が小さな声で呟いた
「タクシーの運転手さんって、本当に大変ですよねえ……。相手がどんな人でも、それがお客さんなら乗せなきゃいけないんですから……」
彼女の声は、それまでの会話よりも、ずっと低い声だった。
聞いている私は、どうにも気味が悪くなってきた。
それを知ってか知らずか、なおも彼女は続けて言う。
「――運転手さんも、ちゃんと確認してから乗せた方がいいですよ。特に、生きている人間かどうかね……」
私はバックミラーを一瞥した。
後部座席に座っている女性が普通の人間であることを確かめずにはいられなかったのだ。
当の彼女は、先程とは打って変わって無表情になった顔を、窓の外に広がる暗闇に向けている。
思わず背筋が寒くなり、ハンドルを握る手に力が入った。
すると、私の視線に気付いたのか、薄い笑みを浮かべた彼女は、次のように付け加えた。
「ふふふ……そんなに疑い深い目で見ないで。大丈夫よ。私は生きている人間だから……」
こう言われても、もう安心することはできない。
心底ぞっとしたが、まさか客を放り出すわけにもいかない私にとって、その時ちょうど目的地に着いたのは不幸中の幸いだった。

しかし、私は再び翻弄されることになる。
料金を支払って下車した彼女が、私に向かって悪戯っぽく微笑んでみせたのだ。
「変なこと言ってごめんね、運転手さん。友達に幽霊の話を聞いたから、ちょっと驚かせてみたくなったの」
――やられた。
どうやら、いくらか子供っぽいところのある女の子に、からかわれただけだったらしい。
だが、憤りなど微塵もなかった。
むしろ、このように人間味のある部分を見せられたことで、ようやく私は得体の知れない恐怖から解放されたのである。
おそらくは下宿先であろうアパートに帰っていく彼女の姿を見送った私は、仕事を切り上げて帰途に就くことにした。

あの夜に乗せたのは、なんの変哲もない一人の女性であるという私の考えが否定されたのは、それから一週間後のことだ。
午後三時過ぎに、私は偶然にも、彼女を降ろした場所を通りかかった。
そして、そこに広がる光景に驚きを隠せなかった。
彼女が入っていった三階建ての建物は、確かにアパートとして建てられたものではあったが、とっくの昔に使われなくなった廃屋だったのである。
車から降りて確かめると、敷地には雑草が生い茂り、外壁も酷く痛んでいるのが見て取れた。
付近の住人らしい年配の女性に尋ねてみると、少なくとも十五年以上は放置されているそうだ。
これを知った私は、半ば茫然自失の状態となって運転席に戻った。
――彼女は、本当に生きている人間だったのだろうか?
――それとも、この世の者ではなかったのだろうか?
――仮に生きている人間だったとして、あんな場所に入っていったのは何故だろうか?
あいにく、真相は今でも分からないままなのだ。
したがって、はなはだ不本意ながら、この奇妙な話の結末を、あなたに語ってあげることはできないのである。

[完]

「別れ話」

閑静な住宅地にある一軒家――その一室で、若い男女がテーブルを挟んで向かい合っている。
二人の間には一枚の紙切れが置かれており、それが会話の焦点になっているようだ。
「なあ、もう一度よく話し合おうじゃないか。君は頭に血が上っているんだ。そのせいで誤解しているんだよ」
いくら男が宥めても、女は激しい調子を崩さない。
テーブルを強く叩くと、それが合図であるかのように、烈火の如く口火を切った。
「誤解ですって!私を裏切っておいて、よくそんな台詞が言えたものね。もう情けないったらないわ!」
「とにかく冷静になろう。何を怒っているんだい」
「今さら言うまでもないでしょう!一ヶ月前に、私は最後通告をしたはずよ。あの時のことを、あなたはもう忘れたの!?」
「忘れるはずがないさ」
「そうでしょう!あなたは私と約束したはずよ。もう二度と、あの女には会わないって。それを破ったら、すぐに別れるって言わなかったかしら?」
「もちろん覚えているよ。そして、僕も条件を呑んだ」
「ええ、そうよ」
女は傲然と言い放った。
「だから、あなたの言葉を信じて離婚を思い留まった。でも、もうお仕舞いよ!さあ、早く書類に捺印してちょうだい」
“りこんとどけ”と大きく書かれた紙を掴んだ女は、それを容赦なく男の鼻先に突きつけた。
その時――階下から二人を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おやつができたわよ!二人とも取りにいらっしゃい!」
「はーい、ママ!」
同じ幼稚園に通う美佳と勇太は、連れ立ってキッチンに降りていった。

[完]

「駆け引き」

蒸し暑い夏の夜のことだった。
私の記憶が確かなら、八月の半ばだったように思う。
自宅の風呂場で頭を洗っていると、背後に何者かの気配を感じた。
そんなはずはないと思いながら、どうしても気になったので、手を止めて振り向いてみる。
当然ながら、そこには誰もいなかった。
ひとまず安心して、洗髪に専念する。
しかし、しばらくすると、また同じ感覚に襲われた。
まさかと思い、ゆっくりと振り返った。
やはり何者も存在しない。
きっと疲れているせいだ――そう自分に言い聞かせると、いつものようにシャンプーの泡を洗い流す。
すると、またも背中から気配を感じるではないか。
いい加減にして欲しかったが、ふと思いついて、振り向く代わりに天井を見上げてみた。
しばしの沈黙――私の頭上に移動していた“そいつ”と目が合った。
不意を突かれたであろう“そいつ”は、気まずそうに湯気の中に消えていった。

[完]

「大きな家の素敵な鏡」

引っ越し先を決めるに当たって、ある四人家族が郊外の物件を下見に訪れた。
大きな二階建ての一軒家だ。
建てられてから長い年数が経っているものの、趣向を凝らした外観や内装は、現代の人間から見ても古臭い雰囲気を感じさせず、実用性を兼ね備えた見事な造りになっている。
また、手入れが行き届いているお陰で新築の家のように清潔に保たれており、住みやすさも申し分ない。
広い庭も付いているため、育ち盛りの子供たちが遊ぶにも都合が良いだろう。
ここで新しい生活を始めたいという妻の意見は、家族全員の考えと一致していた。
ただ、夫妻にとって一番の決め手になった理由は、他にある。
先に述べた数々の要素も素晴らしかったが、それ以上に魅力的だったのは、破格とも言える値段の安さだった。
支払いの大半が土地代だけで済み、家そのものは非常に安価で購入することができたのだ。
契約書に署名した夫は、おそらく建物が古いからだろうと考え、それほど気にしていなかった。

「――ここが新しいおうちなのね」
まだ幼い巻き毛の少女は、うっとりした表情で呟いた。
引っ越し業者に料金を支払い終えた両親は、家具の配置について居間で話し合っているが、そんな話は子供にとって退屈なだけだ。
夫妻の子供たち――十歳の兄と七歳の妹は、今日から暮らし始める家の中を、改めて探検することにしたのだった。
兄の方は一階を探索している。
一人で二階に上がった妹は、子供部屋の奥にある窓に歩み寄った。
前面には両開きの扉が取り付けられており、今は閉まっている。
そこだけが他の窓と違う形をしているために、引っ越し前から妙に気になっていたのだが、その時は開く機会がなかったのだ。
大きく背伸びをして扉に手をかけ、そっと開け放つ。
「あら?」
彼女は小首を傾げた。
目の前には、自分と同じ姿の少女が不思議そうな顔で立っているではないか。
試しに片手を上げると、向こうの自分も同じように動いた。
てっきり窓だと思ったが、どうやら思い違いだったらしい。
「まあ。窓みたいな形の鏡なんて、なんだか素敵だわ」
一目で気に入った彼女は、その前で身だしなみを整えると、また一階に下りていった。

しばらくして、妹と入れ替わりに二階に上がった兄は、先程まで彼女がいた場所に立って、そこから外を見下ろした。
両開きの扉が付いている洒落た窓からは、庭の全体をガラス越しに見渡すことができる。
これだけの広さがあれば、キャッチボールをするにも十分だろう。
窓から離れて部屋を見渡した後で、彼は満足そうに階段を下りていく。

子供部屋には鏡は一枚もないことを妹が知らされたのは、ちょうど夕食の席に着いた時だった。


[完]
プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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