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第16話「夕やみの空」

久々に花子さんがきたの二次創作をうpします。
今までは、できるだけ難しい漢字は使わないようにすることで、児童書の雰囲気を再現しようとしていましたが、今回は少し変えてみました。
見ていただければ分かりますが、文章の全てをひらがなとカタカナのみで表記してあります(やみ子の“子”は固有名詞なので例外)。
この方法を選んだ理由としましては、二つあります。
これまでのやり方だと、どうにもこうにも中途半端な感じがして、個人的に不満があったことが一つ目。
二つ目の理由は、漢字を一切使わないという縛りで、どこまでできるかを試してみたかったということです。
読みづらいのは重々承知していますが、読点を多めにして、できるかぎり読みやすいように配慮いたしましたので、なにとぞご了承ください。





「お、たのしそうなことしてるじゃん。おれもいれてくれよな。もちろんいいだろ?」
そういってはいってきたダイスケをみて、じんじゃのけいだいでサッカーをしていたよにんは、だれもがいやなかおをした。
「なんだよ。せっかくいいあそびばしょをみつけたとおもったのに……」
ボールのもちぬしの、よねんにくみのユウイチが、ぼそっとつぶやいた。
ダイスケは、ユウイチたちのクラスのなかでいちばんからだがおおきくて、ちからもつよい。
それをいいことに、いつもじぶんかってなことばかりしては、まわりにめいわくをかけていたのだ。
ほかのみんなはなんとかしたいとおもっていても、ひどいめにあわされるのがこわくて、だれもちゅういすることができなかった。
「おれがけるから、おまえらはキーパーだ。うまくキャッチしろよ。いくぞ、そーれ!」
できるだけうしろにさがり、じょそうをつけたダイスケが、いきおいよくボールをける。
おもいっきりけっとばされたサッカーボールは、よにんのあたまのうえをとびこえて、はやしのおくにとんでいってしまった。
「なんだよ、ちゃんととれっていっただろ。やっぱサッカーなんてつまんねーな。いえにかえってゲームのつづきやろっと」
ふまんそうなかおをしたダイスケは、あやまりもせずに、さっさとかえっていった。

「あー、マジでムカつく!ダイスケのやつ!せっかくあたらしくかってもらったボールをなくすなんて!」
どれだけおこってみても、ユウイチのいかりは、いっこうにおさまらなかった。
しんぴんのボールをらんぼうにあつかわれたこともはらがたったが、じぶんのだいすきなサッカーをバカにされたのもくやしかった。
ほんとうなら、このきもちをダイスケにぶつけてやりたいが、そのゆうきがない。
かげぐちをいうことしかできないじぶんにも、ダイスケにたいするいかりとおなじくらいに、はらがたっていた。
いっしょにいたさんにんは、じゅくにいかなければならないじかんなので、ひとあしさきにかえってしまっている。
ひとりだけのこったユウイチは、みうしなったサッカーボールをさがすために、えだをかきわけながら、はやしのなかをすすんでいた。
「あっ、あれかな?」
まえのほうにあるひらけたばしょに、なにかまるいものがころがっているのをみつけたユウイチは、それをかくにんするためにちかづいていった。
しかし、それがさがしているものではないことは、すぐにわかった。
つちのうえにおちているのは、ところどころにコケがはえている、じぞうのくびだったのだ。
そばには、くびのないじぞうがたっているところをみると、ここからとれてしまったらしい。
ながいあいだおかれているのだろう。
あめやかぜのせいで、ひょうめんがけずられてしまい、かたちがかわっているところは、いかにもむかしからありそうなものにみえる。
まわりがみょうにしずかなこともあり、なんだかぶきみにかんじられて、ユウイチはいきをのんだ。
「うわっ、なんだよ。きもちわるいなあ。こんなのどうでもいいから、はやくボールをさがさないと……」
ダイスケのシュートがあたったせいで、じぞうのくびがとれたのだとすると、このちかくにボールがあるのかもしれない。

きをとりなおして、さきにすすもうとしたユウイチのせなかに、なにかがぶつかった。
おどろいてふりむいたユウイチのあしもとに、なぜかサッカーボールがおちている。
ユウイチは、くびをかしげた。
ここまでくるとちゅうで、ボールのありそうなばしょは、くまなくさがしたはずだ。
それなのに、どこからボールがでてきたのだろうか。
「まあ、いいや。なくならなくてよかった」
むねをなでおろしたユウイチは、よごれてしまったボールをひろいあげようとして、みをかがめた。
そのときだった。
「あーあ、やっちゃった」
ふいに、ユウイチのうしろで、だれかがいった。
こえのするほうには、しろいワンピースをきた、ちいさなおんなのこがたっていて、ながいふえをバトンのようにまわしていた。
そのおんなのこは、ユウイチのかおをみて、いじわるそうにわらっている。
「いーけないんだ、いけないんだ。あんなことしちゃうなんてさ。あたし、しーらないっと」
「いきなりなんだよ。それに、あんなことって?」
そこまでいって、ユウイチはきがついた。
このおんなのこは、くつをはいていない。
そればかりか、おんなのこの、はだしのままのしろいあしは、ちっともよごれていなかった。
くつをはかずに、はやしのおくまで、つちのうえをあるいてきたなら、あしはよごれているはずだ。
「あれをこわしちゃったでしょ。いまにたいへんなことがおきちゃって、こわいこわーいめにあうんだよ。もしかしたら、にどとかえってこられなくなるかもね」
それだけいうと、ちいさなおんなのこは、おおきなきのうしろにかくれてしまった。
おどかされてふあんになったユウイチは、おんなのこをよびとめようとして、すぐにおいかけた。
ところが、そこにはだれもいなかった。
あたりをさがしてみても、おんなのこのあしあとさえ、ひとつものこっていない。
まるで、さいしょからいなかったようだった。
せすじがさむくなったユウイチは、サッカーボールをひろうと、いそいではやしのなかからでていった。

そらをみあげると、たいようがしずみかけていて、あたりはくらくなりはじめていた。
このじかんなら、まだだれかとすれちがってもおかしくないのだが、ふしぎなくらいにひとけがない。
もしかしたら、このゆうぐれのせかいには、じぶんだけしかいないのではないか。
そんなかんがえがあたまをよぎり、ユウイチのあるきかたは、しぜんとはやあしになっていた。
サッカーボールをこわきにかかえ、さっきまでのことをおもいださないようにしながら、いえじをいそぐ。
しばらくあるいていると、まえのほうから、だれかがちかづいてくるのがめにはいった。
じぶんいがいのひとにであえたことで、ユウイチはあんしんし、それとなくひとかげのほうをみてみた。
ぎゃっこうになっているせいで、ユウイチからはみえにくかったが、どうやらおんなのこらしいことがわかった。
ながいスカートをはいた、かみのみじかいおんなのこが、くつのおとをひびかせながら、じょじょにユウイチのほうにあゆみよってくる。
「ユウイチさん」
ちょうどすれちがい、おたがいのかおがみえるくらいのきょりになったときに、おんなのこがユウイチをよびとめた。
おだやかなちょうしだが、あいてにうむをいわさないような、つよいひびきがかんじられるこえだった。
「え?」
このおんなのこは、なぜじぶんのなまえをしっているのだろう。
すくなくとも、おなじクラスにはいないこだし、がっこうのなかでもみたおぼえがない。
いくらかんがえても、ユウイチには、こころあたりはまるでなかった。
「あの、きみはだれ?」
おんなのこは、どことなくじょうひんなえみをうかべると、ふたたびくちをひらいた。
「わたくしは、よみともうします。ユウイチさん、あなたをむかえにまいりましたの。いっしょにきていただけますか?」
そういって、おんなのこがみぎてをさしだしてくる。
そのいろのしろいてをみたユウイチは、はやしのなかであったおんなのこをおもいだした。
めのまえにいるおんなのこも、さっきのちいさなおんなのこも、まるでちがかよっていないかのように、はだがまっしろだったのだ。
「むかえにって?なにいってんだか、よくわかんないよ。あそびあいてをさがしてるなら、あそんであげてもいいけどさ。でも、きょうはだめだよ。もうおそいから、またあしたね」
そういってかえろうとしたが、よみとなのったおんなのこは、ユウイチのてをにぎってきた。
そのてはつめたく、こえをあげるかわりに、ユウイチはサッカーボールをおとしてしまった。
「そういうわけにはまいりません。あなたは、わたくしのだいじなおきゃくさまですもの。ていちょうにおもてなししなければ、わたくしのきがおさまりませんのよ」
ユウイチは、なにかいおうとしたが、ことばがでてこない。
しかたなく、おんなのこのてをふりはらおうとしたが、それもできなかった。
ユウイチのからだから、みるみるうちに、ちからがぬけていく。
ユウイチはしらなかったが、このおんなのこはよみさんといって、じぶんがきにいったあいてをつれさってしまうというおばけだったのだ。
いしきがとおくなり、ひんのいいわらいをうかべるよみさんのかおが、じょじょにぼんやりとしはじめたとき、どこからか、かぜをきるおとがきこえた。

ユウイチのそばにたつよみさんにむかって、くろびかりするなにかが、いっちょくせんにとんでくる。
それは、ドクロのかたちをした、ぶきみなペンダントだった。
まゆをひそめたよみさんは、ユウイチのてをはなすと、かるくとびのいてペンダントをかわした。
「きぐうですわね、やみ子さん」
そういったよみさんのしせんのさきには、くろいふくをきた、ながいかみのおんなのこがたっていた。
やみ子さんとよばれたおんなのこは、じめんにあたってはねかえってきたペンダントをうけとめると、するどいめつきで、よみさんをみかえした。
「あいにく、そいつには、あたしがさきにめをつけていたんだ。おまえのでるまくはないよ。さっさときえな」
やみ子さんがすごんでも、よみさんは、まったくどうじなかった。
「まあ、そうでしたの。それがなにか?」
よみさんは、ふくについたほこりをかるくはらうと、こともなげにいった。
それをみたやみ子さんは、すこしきにさわったらしく、さっきよりもくちょうをつよめた。
「てをひけといってるんだ。いたいめにあいたくなかったら、さっさとかえりなよ」
よみさんのひょうじょうはかわらない。
さきほどまでとおなじように、おだやかにほほえんだままだ。
「やみ子さん。あなた、あのかたから、めをはなしていたんじゃありませんこと?まけおしみをいって、じぶんのしっぱいをごまかすなんて、すこしみっともないですわよ」
よみさんのことばを、やみ子さんは、だまってきいていた。
ふきぬけていったつよいかぜが、やみ子さんのながいかみのけを、おおきくなびかせる。

「そうかい。じゃあ、こうするまでだよ!」
ちょうはつするようないいかたをされて、やみ子さんのがまんは、げんかいにたっしたらしい。
ごうをにやしたやみ子さんは、おおきくうでをひくと、そのてのなかにあるペンダントを、よみさんめがけてなげつけた。
よみさんはすこしもあわてずに、はなかざりのついたあおいリボンをはなって、ペンダントをはじきとばしてしまった。
ぶつかりあったペンダントとリボンは、くうちゅうでまったあとで、おたがいのてもとにもどる。
「あいかわらず、わかりやすいですわね。やみ子さんらしいやりかたですわ。らんぼうなやみ子さんに、よくおにあいですことよ」
「うるさい!おまえはしゃべりすぎなんだよ!」
よみさんをにらむやみ子さんと、よゆうのあるわらいをうかべているよみさんが、ペンダントとリボンをかまえてむかいあう。

「いまのうちに、にげよう……!やばそうなかんじだったし、またつかまったら、なにをされるかわからないぞ……!」
サッカーボールをかかえたユウイチは、やみ子さんとよみさんがいいあっているすきに、いちもくさんにはしりだしていた。
いまになってかんがえてみれば、じんじゃのはやしにいたおんなのこがいっていた、たいへんなことというのは、このことだったのかもしれない。
さいしょにあらわれたおんなのこはもちろんだが、あとからでてきたおんなのこのほうも、なんだかこわいかんじがする。
ユウイチは、ふたりにみつからないことをいのりながら、せまいろじにはいっていった。
ところが、ろじをぬけたところで、なにかがものかげからとびだしてきて、ユウイチのゆくてをふさいでしまった。
つんのめったユウイチは、ころびそうになりながらも、なんとかたちどまった。

あらわれたのは、いっぴきのいぬだった。
ところが、そのいぬは、きげんがわるいらしい。
かおをあげたユウイチと、めがあったかとおもうと、ひくいうなりごえをあげたのだ。
きばをみせるようにしてくちをあけたいぬは、ユウイチのすがたをしょうめんにとらえると、ぜんしんをばねのようにしてとびかかってきた。
「うわっ!」
ユウイチは、とっさにあたまをさげた。
そのこうどうはせいこうし、とっしんしてきたいぬは、ユウイチをとびこえてちゃくちした。

ふりむいたユウイチは、そのいぬを、あらためてかんさつしてみた。
みためだけは、なんのへんてつもない、どこにでもいる、ごくふつうのいぬにみえる。
しかし、そうおもえたのは、いっしゅんだけだった。
いぬのひとみがぶきみにかがやき、そのかたちがねんどのようにゆがんだかとおもうと、きょだいなくちをもつ、おそろしいすがたのかいぶつにかわったのだ。
「う、うわあああっ!?」
おどろいたユウイチは、みつからないようにしていたこともわすれて、おおきなひめいをあげた。

どうようしたユウイチは、はんしゃてきに、てにもっていたサッカーボールをなげつけた。
しかし、それは、かんたんにはじかれてしまった。
あかぐろいひとみのかいぶつが、おおきなくちをあけて、ユウイチのほうにちかよってくる。

「どうやら、なにかあったようですわね。やみ子さん、つづきはおあずけですわ」
ユウイチのひめいをきいたよみさんは、いそいでろじうらにやってきたが、ひとあしおそかったようだ。

くちをおおきくひらいたかいぶつは、ユウイチにおそいかかると、あっというまにのみこんでしまった。

「たったいま、あなたがのみこんだかたは、わたくしのたいせつなおきゃくさまですの。かえしていただきますわ!」
すかさずよみさんがリボンをとばすが、かいぶつのうごきはとてもすばやく、あっさりとよけられてしまった。
「なんですって!?」
これはよそうがいだったのか、さすがのよみさんも、めずらしくおどろいたようなかおをしてみせた。
そこへ、よみさんをおってきたやみ子さんが、かけつけてきた。

「だから、あたしのじゃまをするなといったんだ!こいつは、あたしがやっつけてやるよ!」
かいぶつのうしろにまわったやみ子さんは、よみさんにつづいてペンダントをなげたが、これもかわされてしまう。
「ちっ、おもったよりすばしっこいね。なまいきだよ」
もどってきたペンダントをうけとめたやみ子さんは、くやしそうにしたうちした。

「さっきのこどもはね、こいつにつけられていたんだ。このかいぶつをやっつけるためには、こいつが、こどもをおそうしゅんかんをねらいたかったんだよ。おまえがじゃましたせいで、それがだいなしになった」
ユウイチが、じんじゃでであったおんなのこは、やみ子さんのいもうとのマホマホだった。
マホマホからはなしをきいたやみ子さんは、かいぶつがでてくることをよそうして、それをやっつけるためにユウイチをみはっていたのだった。
「いまは、そんなことをいっているばあいではないのではなくて?もんだいは、これからどうするかですわ。このまま、にらみあいでは、らちがあきませんもの」
「ふん、いわれなくてもわかってるよ!」
ふたりとも、かいぶつからは、めをはなしていない。
やみ子さんとよみさんは、ぜんごからかいぶつをはさんだじょうたいのままで、どうするべきかをかんがえていた。

さいわいなことに、なんとかするきっかけは、すぐにおとずれた。
とつじょとして、あたりにふしぎなふえのねがひびき、かいぶつのうごきがとまったのだ。
なにかにきづいたやみ子さんがまわりをみまわすと、くらがりのなかであかるくひかっているがいとうのそばに、ちいさなひとかげがある。
やみ子さんは、そのすがたをかくにんすると、しずかにほほえんだ。
そこには、ふえをふいているマホマホがいて、そのねいろが、かいぶつをにぶらせ、うごけなくしているのだ。

「こいつはマホマホのおてがらだね」
うすくほほえんだやみ子さんは、ペンダントをもつてをにぎりしめ、つよくちからをこめた。
また、やみ子さんのことばをきいて、よみさんにもわかったようだった。
うなずくと、リボンをかまえて、かいぶつのほうにむきなおる。
「さあ、これでもくらいな!」
「これは、さっきのおかえしですわ!」
やみ子さんとよみさんは、このきかいをのがさず、ペンダントとリボンを、どうじになげはなった。

ペンダントとリボンのふたつは、やのようにするどくとんで、こんどこそめいちゅうした。
かいぶつは、うめきごえとともにきえていき、そのあとには、きをうしなったユウイチがたおれているのがみえる。
それを、きょうみなさげにみたやみ子さんは、もどってきたペンダントを、もとどおりくびからさげなおした。

「ふん。こいつには、すこしだけてをやかされたよ。でも、これでおしまいだね」
そういったとき、やみ子さんは、よみさんのすがたがないことにきがついた。
それだけではない。
おなじようにユウイチもいなくなっている。
「わたくしは、これでしつれいさせていただきます。ユウイチさんは、わたくしのおきゃくさまですので、ていちょうにおつれしてさしあげますわ」
ひがおちて、すっかりくらくなったそらに、よみさんのおだやかなこえがきこえた。
よみさんのことばによると、ユウイチもいっしょにいるようだが、ふたりのすがたはまったくみえなかった。
「では、ごきげんよう」
そのことばをさいごに、よみさんのこえはきこえなくなり、しずかになったろじうらには、やみ子さんだけがたたずんでいた。

「まったく、わたくしとしたことが、まんまといっぱいくわされましたわ。こんごは、こういうまちがいは、ないようにしたいですわね」
よみさんは、カップについだこうちゃをひとくちのむと、ふかくためいきをついた。
そのとなりには、なぜかマホマホがいて、てにもったクッキーを、おいしそうにほおばっていた。
ユウイチをつれさったよみさんだったが、それはほんものではなく、マホマホがばけたにせものだったのだ。
「へへー。あー、おいしかった。ごちそうさまっ」
よみさんがふるまうおかしにありつきたかったマホマホは、ほんもののユウイチをろじうらにかくしておいて、そのかわりに、じぶんからつれてこられたのだった。
「はいはい、おそまつさまでした」
よみさんは、もういちどためいきをついて、すわっていたいすからたちあがった。

よみさんがマホマホをつれてたちさったあと、しばらくして、ユウイチは、じりきでおきあがった。
ついさっきまで、じぶんのみには、とてもしんじられないようなことがおきていたのだ。
それらは、すべてがゆめかまぼろしのようにもおもえたが、すぐそばにやみ子さんがたっていることから、ほんとうにおこったことなのだとりかいできた。
「きみは……」
やみ子さんも、ユウイチがのこっているのをみて、じょうきょうをさとったらしい。
へんそうしたマホマホが、よみさんについていったとすると、あとでむかえにいかなければならない。
「なんだ、ようやくきがついたのか」
やみ子さんは、ユウイチのかおをみると、そっけないくちょうでいった。
それでも、やみ子さんのおかげで、じぶんはたすかったのだということが、なんとなくわかったため、ユウイチは、おれいをいわなければならないとおもった。
「あの……。あ……ありがとう……」
しかし、ユウイチがかんしゃのことばをいっても、やみ子さんのぶあいそうなたいどは、やはりかわらなかった。
「ふん。おまえをたすけたわけじゃない。あたしは、あいつをやっつけたかっただけさ」
それだけいうと、やみ子さんは、ユウイチにせなかをむけた。
つめたいよかぜが、やみ子さんのやみのようにくろいかみをなでて、そのままとおりすぎていった。
「おまえたちみたいに、こまったことがあると、すぐたにんにたよろうとするやつらは、だいきらいだからな」
ユウイチのきもちをみすかしたようにいいのこすと、やみ子さんは、ろじうらからたちさっていった。
ユウイチは、なにもいいかえせなかった。
あとにのこされたユウイチは、ただだまって、やみ子さんのうしろすがたをみおくった。

「なあ。これ、おれにかしてくれよな。いいだろ?」
「え……。でも……」
よくあさになり、とうこうしてきたユウイチがきょうしつにはいると、からだのちいさいマサヒコが、ダイスケにつめよられていた。
ふたりからはなれたところでは、なんにんかのクラスメイトがかたまって、こえをひそめてはなしあっている。
「またやってる。ほんとうにさいなんだよな。あんなの、かわいそうだよ」
「でも、マサヒコもわるいよ。だいじなものをがっこうにもってくるなんて。ダイスケにみつかったら、とられちゃうにきまってるのにさ」
「クラスかえてほしいよな。こんなのふこうへいだよ。おれらだけ、いちねんかんも、ずっといやなおもいしなきゃいけないなんて。マジさいあく」
ランドセルをおろしたユウイチは、それをつくえにおくと、ダイスケとマサヒコのやりとりを、だまってみつめていた。
あたまのなかで、きのうのやみ子さんのことばが、おもいだされる。
なやんだすえに、ふたりのところまであるいていったユウイチは、いをけっしてこうどうをおこした。

「やめろよ。いやがってるだろ」
ふりかえったダイスケは、いがいそうなひょうじょうをしていたが、すぐにいつものちょうしでいった。
「なんだよ。べつに、なにもしてないじゃん。ただ、ちょっとかしてもらおうとしてるだけだろ」
ダイスケをまえにしたユウイチは、ついきおくれしそうになったが、まけずにいいかえした。
「だれがみても、いやがってるだろ。そんなこともわかんないのかよ」
ダイスケのひょうじょうがかわった。
ユウイチのたいどが、おもったよりもしつこいので、きにいらなかったらしい。
「ユウイチ。さっきから、いちいちうるさいんだよ。おまえ、なんかムカつくぞ」
ダイスケが、にぎりこぶしをつくってみせる。
おどかしのつもりだろうが、もしかしたら、ほんとうになぐられてしまうかもしれない。
それでも、ここまできたいじょう、ユウイチは、いっぽもゆずらないときめていた。
「それできがすむなら、やってみればいいさ。ぼくは、へいきだよ。そんなのぜんぜんこわくない」
そのことばをきいたダイスケが、ユウイチのむなぐらをつかんだ。
ダイスケのまゆは、いかにもふきげんそうに、おおきくつりあがっている。
ところが、そのひょうじょうが、しだいにかわっていった。
ユウイチからはみえていなかったが、じょうきょうをみまもっていたクラスメイトたちが、ユウイチのうしろにあつまってきていたのだ。
「な、なんだよ……。なにみてんだよ。あっちいけよ!」
ダイスケがどなっても、だれひとりとして、そのばから、うごこうとしなかった。
ユウイチのこうどうが、みんなのこころをあとおししたのだ。
「わ、わかったよ……。かえせばいいんだろ……。ご、ごめんな」
すっかりおとなしくなったダイスケは、ちいさなこえで、マサヒコにことばをかけた。

そのひから、はんせいしたらしいダイスケは、それまでのような、かってなふるまいはしなくなった。
やみ子さんは、ユウイチをたすけてくれたわけではないのかもしれない。
それでも、ユウイチは、やみ子さんにかんしゃしている。
ゆうきをふりしぼることができたのは、まぎれもなく、やみ子さんのおかげだからだ。


[完]





今回は、やみ子さんのダークヒーロー(ヒロイン?)っぷりを前面に出して、誰一人として主人公を救おうとしておらず、出てくる人物全員が自分の勝手で動いているにも関わらず、とにかく運が良かったので助かるという話にしてみました。
本人は人を助ける気なんてサラサラないのに、結果的に人助けという形になってしまうというのが、ダークヒーローの醍醐味の一つだと思ってます。
元々は、単にやみ子とよみさんのガチバトルにしようと考えてましたが、仲がよろしくない雰囲気にはなった気がするので、その点は満足でっす。





ここからは、ボツにした部分を、ちょっとしたおまけとして置いてます。
              ↓
みると、きをうしなっているユウイチのそばに、よみさんがしゃがみこんでいて、そのかおをのぞきこんでいるではないか。
まだあきらめていないのか、よみさんは、あくまでユウイチをつれていくつもりらしい。
「やみ子さんはもくてきをたっせいできたようですし、わたくしも、じぶんのもくてきをはたさせていただきますわ。そうでなければ、ほねをおったかいがありませんもの」
よみさんがてをのばすと、ユウイチはうっすらとめをあけて、からだをおこした。
「もうあんしんですわ。あのかいぶつはわたくしたちがたいじいたしました。さあ、あとはわたくしについていらっしゃるだけですわよ」
よみさんがかたりかけると、さっきまでとはうってかわって、ユウイチはうれしそうにわらった。
そのようすは、まるでべつじんのようだった。
「わかっていただけて、わたくしもうれしいですわ。では、まいりましょう」
ユウイチは、じぶんからよみさんのてをとると、いじわるそうにわらってみせた。
そのひょうじょうをみたよみさんは、なにかひっかかるものをかんじていた。
ユウイチのては、こんなにいろがしろかっただろうか。
「うん、いいよ。あたし、おちゃがしは、おいしいケーキがたべたいなー」
ユウイチのすがたがぼやけていく。
つぎのしゅんかん、そこにいるのはユウイチではなく、よみさんとてをつなぐマホマホだった。
よみさんのあいてをしていたユウイチは、ほんものではなく、マホマホがばけたにせものだったのだ。
「……だめですわ。あなたのためによういしたものではありませんもの。ごめんなさいね」
いっしゅんだけかたまったよみさんだったが、すぐにいつものちょうしをとりもどし、そうこたえた。
しかし、マホマホはなっとくしなかった。
「えー!なんでなんでー!?さっきは、ついてきてっていったじゃん。いこうよいこうよー!」
おねがいをことわられたマホマホは、てあしをばたばたさせて、だだをこねはじめた。
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第15話「振り向いたら最期」

「――やっばーい。もう真っ暗じゃん」
制服姿の女の子――中学一年生のアヤは、ゲームセンターを出るやいなや、思わず口に出した。
そもそも、塾の帰りに、軽い気持ちで寄り道したのがいけなかった。
クレーンゲームに熱中して、つい時間を忘れてしまったのだ。
家にも連絡していないから、早く帰らないと叱られてしまう。
そう思って自宅に電話したが、お母さんがいるはずなのに、誰も出ない。
仕方なく留守番電話にメッセージを吹き込んだアヤは、クレーンで取ったマスコットを付けた鞄を携えて、家路を急いでいた。
a0830_000268_m.jpg
時間は午後七時前――辺りは夕闇に包まれ、もう夜になりかけている。
夕日が沈み、月が顔を出す前の、いわゆる黄昏時だ。
近くに他の人影はなく、そこを歩いているのは、アヤ一人だけだった。
――あーあ、やだなぁ。
アヤは憂鬱だった。
それというのも、同じ塾に通っている友達から、ある話を聞いたからだ。
「幽霊とかお化けって、怖がってる人のところに出るんだって。だから、怖がっちゃ駄目なの。怖い怖いと思ってると、心に隙ができて、逆に呼び寄せちゃうからさ」
友達は、そう言って笑っていた。
そんな話を聞いた後だと、いつも通っている道でも、なんとなく気味が悪い。
もっとも、さっきまでは忘れていたのだが、寂しい道を歩いている内に、思い出してしまったのだ。
何か楽しいことを考えて、気を紛らわせようとしても、頭の片隅から消し去ることができない。
――ったく……チサのやつ、あんなこと言って……。そういう話を聞いたら、かえって意識しちゃうじゃない。
学校で会ったら文句を言ってやろう。
その内容を考えながら、早足で歩いていた時だった。
背中に寒いものを感じたアヤは、その場で立ち止まった。
後ろから誰かの足音が聞こえたのだ。
「怖がってると呼び寄せちゃうんだって」
チサの言葉が脳裏に響き、胸中に芽生えた恐怖心を煽る。
無意識に身を固くするが、やがて近付いてきた足音の主は、アヤの横を通り過ぎていった。
それは、近所に住む大学生のお姉さん――つまり単なる通行人だったのだ。
「――ふぅ……」
小さくため息をつき、ひそかに胸をなで下ろしたアヤは、また歩き始めた。
その途中で、最近になって買い換えたばかりの、真新しいピンクの携帯電話を取り出し、親しい友達に宛てたメールを打つ。
ボタンを押すと、煌々と光る液晶画面と軽快な電子音が、送信が完了したことを伝えた。
「よしっ」
しかし、こうしている間も、アヤの心は揺れていた。
恐ろしいものは、それを怖がる人間のところに訪れる。
チサから聞いた話が、どうしても忘れられないのだ。
それどころか、ますます強くなっている。
考えてはいけないと思っていても、追い払うことのできない感情が、心の奥に染み込んでくるようだった。
それらを振り払おうと、アヤは脇目も振らずに歩き続ける。
しばらくして、ふと気付いた。
何か聞こえる。
さっきの足音とは違う別の物音が、アヤの後ろから近付いているらしい。
聞こえてきたのは、何かを引きずっているような音だった。
これが通行人なら、さっさと通り過ぎてくれるはずだ。
そう考えたアヤは、試しに立ち止まってみた。
しかし、いつまで経っても、アヤのそばを通過する者はいない。
アヤが足を止めると同時に、音の方も止まってしまうのだ。
そして、アヤが歩き出すと、後ろにいる何かも、また動き始める。
速度は遅いが、明らかに自分の後を追ってきている。
そのことが分かり、ぞっとしたアヤは、歩くペースを速めた。
後ろの何かも、それに従って速くなるために、距離は一定のままだ。
――怖くない……!怖くない怖くない……!
自分に言い聞かせるが、追いかけてくる音は一向に止まない。
そうしていると、鉄製のフレームと金網で囲まれた一角が見えてきた。
この地域のゴミ捨て場だ。
そこに差し掛かったアヤの目の前で、数羽のカラスが飛び立った。
驚いたアヤが、びくっと体を震わせる。
その瞬間に、追いかけてくる音が、急に近くなった。
引きずるような音と一緒に、何かがアヤの後ろに迫っている。
息を呑んだアヤは、振り向いて確認しようと考えた。
もし何事もなければ、それで安心できるのだ。
――よし、振り向こう。
だが、そこで気付いた。
自分の後ろにいる何者かは、怖がれば怖がる程に近付いてきている。
後ろを向いて何もいなければ、確かにそれでいい。
でも、もし――もし、そこに恐ろしいものがいたら?
それを見てしまったら、ただでさえ必死で押し殺している恐怖心を抑えることができなくなる。
まさしく隙だらけの状態だ。
この後ろにいる何かは、それを待っているに違いない。
絶対に振り向いちゃ駄目だ。
とにかく、追いつかれないように家まで帰るしかない。
アヤは、ひたすら耐えることにした。
できる限り、怖いことを考えないように……。
しかし、一度でも根付いた不安や恐怖は、そう簡単に消せるものではない。
自分の後ろにいるのは、一体なんなのか?
嫌でも想像が膨らみ、それが更に恐怖心を助長する。
後ろの何かは、決して離れることなく、じりじりとアヤの背後にくっついてきている。
気のせいか、さっきまでと比べて、速度も速くなっているようだ。
いや、確実に速くなっている。
このままでは、いずれ追いつかれてしまうだろう。
アヤは、もう限界だった。
もう少しで家に着くということもあり、歩くのを止めて走り出す。
その後ろから、何かが追いかけてくる。
――もう少し……!もう少しだ……!
入口のドアを開けたアヤは、倒れ込むように玄関へ飛び込んだ。
そこから懸命に立ち上がると、おぼつかない手つきで施錠する。
「はぁ……はぁ……」
走ったせいで息が切れたが、ひとまず安心だ。
しかし、家の中は、妙に静まり返っている。
外から電話をかけた時と同じく、家族は誰もいないようだった。
だが、今は身の安全が優先だ。
自分の部屋に入ったアヤは、そこにも鍵をかけた。
鞄を放り出し、カーテンを開けて外を見てみるが、怪しいものは見当たらない。
その時、鞄に入れていた携帯電話が鳴った。
友達からメールの返信が届いただけだったが、神経を尖らせていたアヤを動揺させるには十分だった。
「ひっ!」
アヤの口から、小さな悲鳴が上がる。
それと同時に、クローゼットの中から、物音が聞こえた。
――まさか、ここまでついてきた?
おそるおそるクローゼットに近寄ったアヤは、そこを開いて覗き込んだが、中にあるのは自分の服だけだ。
しかし、その奥の方は、吊り下げられた衣服の陰になって隠れている。
思い切って、それらをどけてみるが、やはり何もない。
本当に安心したアヤは、クローゼットを閉めようとする。
階下で、不意に音がしたのは、その直後だった。
アヤの心臓が跳ね上がる。
そして、クローゼットの天井付近の闇の中から、怯えるアヤに向かって、何かが落ちてきた――。

「アヤ、いるの?アヤ?もう、しょうがないわね。もうすぐ夕飯だから、着替えたら下りてきなさいよ」
階下で音を立てたのは、些細な用事を済ませて戻ってきたアヤのお母さんだった。
部屋には鍵がかかっている。
それを確認したアヤのお母さんは、誰もいなくなった部屋に声をかけ、また一階に下りていった。


[完]

第14話「無言メール」

――うわさというのは、見えるけれど見えないものなの。
見方を変えてみて、はじめて分かることもあるわ。

このところ、世間では無言メールのうわさが広まっている。
知らないアドレスからメールが届くのだが、件名にも本文にも何も書かれていないのだ。
それを削除したり、送られてから一週間が経つと、受け取った人間は消えてしまうと言われていた。
ある日、高校生のアキラが学校に行くと、友達のコウジが興奮した様子で話しかけてきた。
「おい、聞いたか?キムラ先生の話」
「なにがだよ」
「最近、キムラ先生の姿を見かけないだろ?なんでも行方不明になってるらしいぜ」
詳しく聞いてみると、キムラ先生は、しばらく前から無断欠勤していたらしい。
電話をかけても一向に出ないので、不審に思った先生の一人がマンションを訪ねてみると、そこには誰もいなかったという。
テーブルには冷めたコーヒーの入ったカップが置かれ、その隣には開いた携帯電話が残されていた。
キムラ先生の実家や、行きそうな場所は全て調べられたが、手がかりは一つも見つけられなかった。
警察では、原因不明の謎の蒸発事件として扱われているとのことだ。
しかも、コウジの話によると、これは今うわさになっている無言メールのせいだというのだ。
「マジだよ、マジ。最近、この学校でも例のメールが回ってるっていうし……」
「やめろよ。お前、そんなの信じてんの?授業始まるぞ」
興味津々といった様子のコウジは、まだ話し足りないようだが、アキラは相手にしなかった。
コウジの横を通り過ぎて、さっさと教室の中に入っていく。

次の日、昨日あれだけはしゃいでいたコウジは、打って変わって暗い表情をしていた。
それが気になったアキラは、コウジに話しかけた。
「どうしたんだよ。らしくないぞ」
「……届いたんだよ、おれの所に」
うつむいたコウジは、視線を自分の携帯電話に向けた。
その手は小刻みにふるえている。
「届いたって、あれか?見せてみろよ」
アキラは、コウジから携帯電話を受け取ると、届いたメールを確認した。
確かに、うわさと同じ何も書かれていない無言メールが受信ボックスの一番上にあった。
「なんでもないよ、こんなの。たちの悪いイタズラに決まってるって」
「そうかな……いや……」
アキラが励ましても、コウジは浮かない顔のままだった。
そうしている内に先生がやってきて、二時間目の授業が始まった。
一時間目の時と同じように、コウジは全くの上の空だ。
アキラから見ても、まともに授業が受けられる状態ではない。
ふと、いい案を思いついたアキラは、学校が終わった後の帰りがけにコウジを呼び止めた。
「一週間後は祝日で休みだし、前日から、おれの家に泊まりにこいよ。それなら安心だろ?目の前で人が消えたりする訳ないんだからさ」
「あ、ああ……分かったよ。ありがとな」
無言メールを送られた人間が消えてしまうという日の前日、予定通りにコウジはアキラの家にやってきた。
二人とも楽しい時間を過ごし、コウジもだいぶ気が紛れているようだった。
そして、一週間後の祝日も終わりを迎えようとしていた。
時間は、もうすぐ日付が変わる午後11時50分だ。
メールのことなど、すっかり忘れてしまっているアキラは、トイレに行くためにコウジを残して席を立った。
戻ってきたアキラは驚いた。
コウジがいなくなっていたのだ。
テーブルの上に、開いて置かれたままの携帯電話を残して……。

あれから数日が経ったが、コウジの消息は依然として不明だった。
こうなった以上、コウジが消えてしまった原因は、あのメールしかない。
最後に会った人間として、アキラは警察に質問されたが、無言メールのことは言わなかった。
きっと、まともには聞いてもらえないだろう。
「コウジ……あいつが消えるなんて……」
コウジがいなくなってから一週間後、放課後の教室に一人だけ残っていたアキラの携帯電話が鳴った。
メールの着信だった。
件名にも本文にも何も書かれていない。
うわさの無言メールがアキラに届いてしまったのだ。
アキラは不安で仕方なかったが、どうすればいいのか分からない。
一日経ち、二日経ち、恐ろしくなったアキラは、携帯電話をクローゼットの奥に放り込んでしまった。
そうして忘れようとしたのだが、一度届いたら逃げることはできない。
最後の日を迎える直前になって、アキラは再び携帯電話を取り出した。
――いやだ!おれは消えたくない!助かる方法……何か助かる方法は……!?
携帯電話を開いたアキラは、手がかりを求めて、あのメールを見直してみた。
にぎった手のひらに汗がにじむ。
その時、メールが表示された画面を穴が開くほど見つめていたアキラの頭の中に、ある考えが浮かんできた。
無言メールという、うわさを知っていたせいで、最初から何も書かれていないと決めつけていたんじゃないか?
だとすれば、そもそも最初の考えが間違いだったということになる。
「そうだ……!」
アキラは、届いた無言メールを自分のパソコン宛てに転送した。
打ち込まれた文字を一見しただけでは読めないようにする、ちょっとした仕掛けがあることを思い出したのだ。
たとえば、赤い背景に赤色で文字を書くと、色が同じために区別が出来ず、ただ見ただけでは何も書いてないように思える。
読めるようにする方法は簡単だ。
その部分をカーソルで選択し、文字の色を反転させてやればいい。
「……!」
アキラがマウスを操作すると、今まで何もないと思っていた場所に文章が浮かんできた。
無言メールの正体は、白い背景に白い文字で書かれたメールだったのだ。
そこには、こう書かれていた。
「このメールは、やみの世界からの招待状です。都合が悪い方は、下記の指定日時までに、このアドレス宛に『お断りします』と返信して下さい」
まだ間に合う。
アキラは、すぐにメールを返信した……。

夜が明け、朝になった。
最後の日は何事もなく終わったのだ。
携帯電話にあったメールは、影も形もなくなっている。
安心したアキラは、深いため息をついて、ベッドに寝転がった。
昨夜は心配で寝るどころではなかったので、緊張が解けたのもあって、すぐに心地よい眠気がおそってきた――。
だから、アキラは気付いていなかった。
パソコンに転送してあったメールが、アキラの所から、見知らぬどこかに送信されていることに……。
今まで携帯電話の間だけで回っていたメールが、パソコンのメールの中にも入り込んでしまったのだ。
うわさは、どこまでも広がっていくだろう……。

……どうしてわたしがそんなことを知っているかって?
それは、わたしがうわさの花子だからよ――。

[完]

第5話「カゲビトがきた!!」

うわさとお化けは、よく似ています。
両方とも、現れたり消えたりするものだからです。
子供のころに、花子さんのうわさを聞いたけれど、一度も出会わなかったという人もいるでしょう。
でも、がっかりしないで下さい。
もしかしたら、あなたが大人になってから会えるかもしれないのですから。
これは、そんな少し未来のお話です……。

今はもう誰もいない、古びたお寺の裏庭で、やみ子さんは、たくさんの黒い影に苦戦していた。
月の光に照らされたお墓で、ドクロのペンダントが宙を舞う。
ペンダントは影の一つに命中し、影はペンダントの中に吸い込まれていった。
しかし、いくらやっつけても影は増えていくばかりで、いっこうに減る気配がない。
「ちっ。これじゃ、きりがない」
はね返ってきたペンダントをキャッチして、やみ子さんは悔しそうに言った。
ここに着いてから、ずっと、この影たちを相手にし続けている。
さっきから、何度もペンダントを使っているので、疲れて腕も上がらなくなってきていた。
「この!えぇーい!!」
やみ子さんが、月明かりにペンダントをかかげる。
すると、ペンダントが強い光を放ち、周りにいた、たくさんの黒い影が、次々にペンダントに吸収されていく。
お墓を埋めつくすほどだった影たちも、一気に数を減らした。
ところが、あまりに多くの影を吸収し過ぎたのか、だんだんと、ペンダントにヒビが入り始めたのだ。
「うっ……?うわぁっ!?」
ヒビはどんどん大きくなり、なんとやみ子さんのペンダントは、粉々に砕け散ってしまった。
それと共に、せっかくやっつけた影たちも、ペンダントの外に飛び出していく。
影たちは、お互いにくっついて一つの大きな塊になり、崩れかけた鐘突き堂の方へ逃げていった。
「あ!ま、待て!」
やみ子さんは慌てて追いかけるが、お堂に着いた時には、もう影たちの姿は見当たらなかった。
念のため本堂も見て回ったが、どこにもいない。
どうやら、完全に見失ってしまったらしい。
「くそ……。あいつら……」
やみ子さんは、壊れてしまったペンダントを作り直すために、やみの中に消えていった。

レイコは、地元の小さな出版社につとめている。
今度の雑誌記事のために、廃校になって一ヵ月後に取り壊されてしまう小学校を取材することになったのだが、それがレイコの母校なのだった。
建物は残して町のために使うという話もあったので、そのために工事は延期されていたが、結局それはなくなり、予定通りに工事がされることになったらしい。
「なつかしいなぁ。そういえば、みんな元気にしてるかな?」
ふと、子供のころの思い出がよみがえってきた。
レイコが小学生の時には、たくさんのうわさ話があった。
首がなる木のうわさ、トンカラントンのうわさ、人食いランドセルのうわさ……。
中でも一番種類が多く、有名だったのは、花子さんのうわさだ。
トイレにいる怖い花子さんのうわさや、困っている人を助けてくれる花子さんのうわさなど、色々なものがあった。
学校の七不思議を解明すると意気込んで、友達と一緒に放課後の教室で騒いでいたこともあった。
もちろん、七不思議を信じていた訳ではない。
信じていないからこそ、気軽に楽しめたのだ。
あの時も、結局なんにも起こらなかった。
「楽しかったなぁ……。本当に子供だったのよね……」
子供のころは、学校に行けば、取るに足らない話でよく盛り上がっていた思い出がある。
でも、うわさはいつか消えていくものだ。
大きくなるにしたがって、レイコもうわさの事は忘れていった。

レイコが会社を出て家に帰ると、
中学一年生になる弟のカズキが一足先に食卓についていて、つまみ食いをしていた。
「こら、ぎょうぎ悪いよ」
「あれ?姉ちゃん、帰ってたの。あ、そういえば次の取材どこ?」
カズキは将来の夢がジャーナリストというだけあって、最近はレイコの仕事にも興味を持っていたのだった。
「あたしの母校のA小学校よ。廃校になったから、来月に取り壊されちゃうらしくてさ……。それで、その前に取材しとくの」
それを聞くと、カズキは急に心配そうな表情になった。
「止めといた方がいいよ。だって、その辺りに幽霊が出るってうわさだよ?」
「大丈夫よ。そんなの、ただのうわさでしょう。一体どういううわさなの?」
「えーと……。誰もいないのに夜中に明かりがついてるとか、足音が後ろから追いかけてくるとか……」
「そういううわさなら、あたしが小学生のころからあったわよ。もちろん何にもなかったけどね。だから、大丈夫大丈夫」
いくらカズキが言っても、レイコは全く取り合わない。

そして、取材の日をむかえた。
長く勤めていた先生達に話を聞いた後、学校の写真を撮るために、レイコは先輩のメグミと一緒に、車で学校に向かった。
ラジオからは、『恋人たちの罪』という曲が流れている。
レイコたちが小さかった頃に流行った曲で、今でも根強い人気がある往年のヒット曲だ。
到着して車から降りると、もう日が暮れていた。
昔は真新しく見えた学校も、久しぶりに来てみると、もうだいぶ古くなっているのが分かった。
レイコとメグミは、校舎の中に入っていく……。

メールを送信して携帯電話を閉じると、カズキは再び自転車をこぎだした。
夕日で赤く染まった上り坂を、汗をかきながら、力一杯に登っていく。
その時、誰かの視線を感じた。
顔を上げて前を見ると、遠くのガードレールの上に、ピンクのリボンをつけた女の子が座っている。
女の子の背中側には、深い排水溝があった。
「危ないなぁ。あんな所にいて」
そう思いながら、カズキは脇を通り過ぎようとした。
それに従って、女の子の姿が徐々に視界の中心に入り、今度は端の方に移っていく。
そして、女の子の姿が視界から消えた。
「あれっ?」
カズキは違和感を感じて立ち止まった。
女の子がいない。
まるで最初からいなかったように、完全に消えてしまっている。
「なんだよ……。気味悪いなぁ。近道して帰ろう」
カズキは坂を登りきると、自転車を押して、裏通りの塀の間にある一本道に入った。
ここを通れば、家から学校までの近道になるのだが、幅がせまいため、自転車を降りて通らなければならない。
この道は、昼でもあまり日が当たらないため、いつもうす暗かった。
そばにお墓があることもあって、なんとなく通りづらく、いつも使っている訳ではなかった。
しばらく進むと、前の方から誰かが近付いてきた。
「珍しいなぁ。他の人が通るなんて……」
カズキは、道をゆずろうと、出来るだけ塀の方に移動して、その人が来るのを待った。
「……うわぁ!?」
だが、それは人ではなかった。
最初は黒い服を着ているのだと思ったが、それは人間の形をした影そのものだった。
カズキが気付いた時には、だいぶ近くまで来てしまっている。
逃げようとして後ろを振り返ったが、そこにも黒い影がいて、だんだんこっちに近寄ってくる。
どこにも逃げ場がないと思った時、甲高い女の子の声が聞こえた。
「お待ちなさい」
見ると、塀の上に、さっきの女の子が座っている。
夕方に家に帰る子供を連れていってしまうという、よみさんが現れたのだ。
よみさんは、黒い影たちに話しかけた。
「その方は、私のお客様ですの。どうかお引き取り願えませんか?」
だが、影たちは構わずカズキに黒い手を伸ばした。
「それなら、こうですわ!」
よみさんが投げつけたリボンが、ひらりと飛んで、影の一つに絡みついた。
そして、次の瞬間には影は消えてしまい、リボンだけが、はらりと地面に落ち、風に舞って、よみさんの手の中に戻った。
「それっ!」
よみさんは、今度はもう一つの影に向かって、リボンを飛ばす。
その時、横から飛んできたドクロのペンダントが、リボンよりも先に影に命中した。
影がペンダントに吸い込まれると、そこには、夕日を背にして、もう一人の女の子が立っていた。
「あら、やみ子さん。お久しぶりですわ」
よみさんは、塀から降りると、やみ子さんの横に立った。
「そうそう。花子さんはお元気かしら?」
やみ子さんは、ペンダントを首にかけると、よみさんをにらみつけた。
「お前に構っているひまはない」
そう言って、やみ子さんは、さっさと歩いていってしまった。
影がいなくなった間に、いつの間にか、カズキも無事に帰っていったらしい。
「あいかわらずの調子ですわね。あの方も、どこかへ行ってしまったようですし……」
よみさんは、興味ありげにくすりと笑って、夕日の中に消えていった。

レイコとメグミは、教室を一つずつ回って写真を撮っていった。
一階は二人で撮っていたが、同じ場所を撮っていたら時間がかかるので、二階で分かれることにした。
メグミが三年二組の教室に入り、レイコは、その向かいの四年二組の教室を担当する。
そっと扉を空けて中に入り、教室の様子や、窓から見える風景を、デジタルカメラに収めた。
「小さい机……。さすがに、もう座れないわね」
二組は、レイコがいた教室だった。
昔のままという訳ではないが、机の配置などは、あまり変わらない。
なつかしくなって、つい椅子を引き出して座ってみたが、思った通り、かなり窮屈だ。
差し込む夕日が机に反射して、少しまぶしい。
こうしていると、放課後の時間を思い出す。
今にも、横にいる友達が話しかけてきてくれるような気がした。
この学校も、ここから見える景色も、もうすぐ見られなくなる。
昔あった、たくさんのうわさと同じように消えてしまい、じきに忘れられるのだろう。
自分も忘れてしまうのじゃないかと思う。
実際、ここに来るまでは忘れていたのだから。
工事が済めば、また記憶から徐々に薄れていき、こうして思い起こすことも出来なくなる。
もしかしたら思い出も一緒に消えてしまうのだろうか。
そう思うと、なんだかとても寂しい。

ふと時計を見ると、結構な時間が経っている。
どうやら、少しぼんやりしていたらしい。
「やば」
レイコは慌てて教室を出たのだが、メグミがいる気配がない。
二階の教室を全部見て回ったのだが、どこにもいない。
「せんぱーい?三階かな……。やばいなあ。謝らないと」
ところが、三階にもメグミの姿はなかった。
一階に降りてみたが、そこにもいない。
車に戻ったのかと思ったが、廊下の窓から見ても、車の中は空っぽだ。
メグミの携帯にかけてみても、呼び出し音が続くだけだった。
レイコは、カズキの話していた幽霊や、自分が通っていた頃のうわさを思い出していた。
そんなはずないと思っていても、やっぱり不安になってくる。
もう時間は午後七時近い。
まだ残暑は厳しいといっても、もうすぐ秋になるこの時期は、そろそろ日が沈んでくる時間だ。
その時、廊下を歩いていたレイコの足が止まった。
前方にある、六年一組の教室の扉が、わずかに開いている。
その隙間の内側から廊下に向かって、床の上に、長い影が伸びているのが見えた。
「……先輩?」
レイコが近付いていくと、影は教室の中に引っ込んでしまった。
おそるおそる、レイコが扉に手をかけて大きく開けた。
「なんで……?」
教室には、特に変わった様子はない。
ただ、誰もいなかった。
扉の近くに、影を作るようなものさえない。
レイコが周りを見渡していると、背後で、さっき開けた扉がひとりでに閉まった。
同時に、机や椅子、教卓の影から、人間の形をした影たちが、ゆっくりと這いだしてきた。
それらは、一斉にレイコを取り巻くように近付いてくる。
「ひっ!なっ、なに!?なんなの!?」
逃げようとするが、扉は鍵をかけられたように開かない。
扉を背にして追いつめられたレイコの間近に、影たちが迫る。
今まで体験したことのない恐怖に耐えられなくなったレイコは、しゃがみこんで固く目をつぶった……。

――目を開けると、そこには小さな女の子がいた。
おかっぱ頭で、チューリップのアップリケが縫いつけられた赤いスカートを履いている。
「もう大丈夫よ」
女の子は、そう言って、子供を安心させるように微笑んだ。
見ると、奥の方の椅子にメグミが座って、机に突っ伏して眠っている。
無事なようだ。
「だ、誰?誰なの?」
「わたしは、うわさの花子。カズキくんが、私を呼んだの。何かあったら、お姉さんを助けてほしいって」
「え?花子……さん……?」
「早く帰ったほうがいいわ。カゲビトたちが集まってきてるから」
花子さんは、教室を出て、屋上への階段を上がっていく。
その横には、いつものようにホワホワちゃんも一緒にいる。
レイコは、さっきからの出来事が信じられなかった。
影に襲われたこと、花子さんが助けてくれたこと……。
全部、子供の頃のうわさ話にあっただけのもので、本当にいるはずがないと思っていたことばかりだ。
レイコは、遠ざかっていく花子さんの後ろ姿を、ずっと見つめていた。
その時、教室全体が急に暗くなった。
窓から差していた光も、うすれていく。
この学校全体が、巨大な黒い影に覆われ始めていたのだ……。

屋上で、花子さんは、校舎を包み込むほどの巨大な影の怪物と向き合っていた。
やみの世界から大量にやってきて、散らばっていたカゲビトの群れが、この学校に集まって、一つに合体したのだった。
「ここはあなたのいる所じゃないのよ。さぁ、一緒にやみの世界に帰りましょう」
花子さんが説得するが、巨大に成長したカゲビトは聞こうとしない。
このまま放っておけば、さらに仲間を呼んで、今以上に大きくなってしまう。
そうなったら、もう手がつけられない。
「もう仕方ないわね……。幽霊しばりアップリケ!やみの世界に連れ戻しなさーい!」
暖かい光を放つアップリケが、カゲビトに向かって飛んでいく。
だが、巨大カゲビトは、それをものともせずに、はじき返した。
それどころか、アップリケの輝きが逆に新しい影を生み、そこから別のカゲビトが生み出されてしまう。
「どうしたら……」
影が大きくなっていき、花子さんは、じわじわと屋上の隅に追いやられていく。
その時、どこからか飛んできた青いリボンが、花子さんの近くにいたカゲビトの群れに巻き付いた。
カゲビトたちは空気にとけ込むように消えてしまい、後に残ったリボンが、風に乗って、よみさんの元に帰る。
「よみさん、来てくれたの?」
ホワホワちゃんが嬉しそうに言った。
「花子さんと勝負をするのは、この私。よみだけですのよ」
花子さんと、よみさんが並んで立った。
改めてアップリケとリボンを構えた二人に、巨大カゲビトが迫ってくる。
だが、すごい速さでぶつかってきたドクロのペンダントが、それをはばんだ。
「やみ子さん!」
花子さんが呼びかけた。
よみさんに加えて、やみ子さんも現れたのだ。
「花子と勝負するのは、このあたしだよ!」
命中したペンダントは、巨大カゲビトの体を吸収しようとするが、大きすぎて途中ではじかれてしまった。
しかし、これが効いたのか、カゲビトは少し小さくなったようだ。
三人がそろって、カゲビトと向かい合う。
「やみ子さん、よみさん。来てくれてありがとう」
「ふん、さっさとやっつけるよ!」
「あなたに言われるまでもないですわ」
アップリケ、ペンダント、リボンが、それぞれの手に握られている。
「幽霊しばりアップリケ!幽霊を、やみの世界に連れ戻しなさーいっ!!」
花子さんの合図と共に、ペンダントとリボンもカゲビトめがけて放たれる。
三つが同時に命中し、巨大カゲビトはボロボロと崩れるように消えてしまった。
学校は元通りになり、外はもう夜になっていた……。

あれから予定通り、取り壊しの工事が始まった。
レイコは、それを少し離れた所から見ていた。
学校が壊れていくのは、少し辛かったが、それでも最後の姿を見ておきたかったのだ。
あの時のことは夢だったのだろうかと思う。
うわさが本当だったなんて、とても信じられないことだった。
でも、それは、自分が出会わなかっただけかもしれない。
怖い体験だったが、不思議とレイコは穏やかな気分だった。
今でも、うわさのお化けや花子さんたちが、自分の知らない所にいるのだろうか?
消えてしまったように見えても、彼らは、またいつかどこかで姿を現すのだろう。
この学校がなくなっても、そこで過ごした思い出が消えないのと同じように。
レイコは、心の中で、そう思った――。

花子さんはどこにいるのでしょうか?
でも、花子さんに会えたということは、あなたの周りでコワイことがあったということです。
もしかしたら、会えない方がいいのかもしれません。
会えなかったとしても、花子さんは、きっとあなたの知らない所にいるはずです……。

[完]

第4話「うわさの花子さんのウワサ」

……今から少し昔のお話です。
ケンジやリサたちのお父さんやお母さんが、まだ小さかった頃、学校で一つのうわさが話されていました。
真夜中の十二時に、鏡に向かって、「花子さん、花子さん、どうか姿を見せて下さい」とお願いをするのです。
すると、花子さんが来てくれて、困っている人を助けてくれるというウワサでした……。

3年生のマサシ君たちの学校では、このところ、続けて奇妙な事件が起こっている。
放課後の校舎に残っている生徒が、次々にいなくなってしまうのだという。
警察も調査をしたが、はっきりした手がかりはなく、原因は分からなかった。
連続して起こる失踪事件を、学校側でも放ってはおけない。
それで、しばらくの間は、授業が終わったら、すぐに生徒を帰らせることになった。
ある日の下校途中で、仲良しのマサシ、ユウスケ、ヒトミの三人が、事件のことについて話していた。
「ねぇねぇ、花子さんを呼んで助けてもらおうよ」
ヒトミが言った花子さんとは、近頃学校で評判のオバケのうわさだ。
ただ、見たという友達が周りにいないので、マサシはあまり信じていなかった。
「どうやって呼び出すんだよ」
「真夜中の十二時に、鏡に向かって、花子さんにお願いすればいいんだって」
「でも、本当に来てくれるのかなあ」
「だめでもいいから、今日、僕の家に集まって、みんなでやってみようよ」
マサシは半信半疑だったが、ユウスケの提案で、今夜、花子さんを呼んでみることになった。

三人の家は近所にあり、お互いに遊びに行っていたので、場所はよく分かっている。
夜になり、家を抜け出したマサシとヒトミが、ユウスケの部屋にやって来た。
ヒトミが持ってきた鏡を机の上に置くと、三人は揃ってお願いを始めた。
「花子さん、花子さん、どうか姿を見せて下さい……。僕たちの学校を助けて下さい……」
けれど、いくら待っても花子さんは現れない。ユウスケとヒトミは、がっかりしたが、マサシが励ますように言った。
「だったら、明日の放課後に残って、僕たちで確かめようよ」
ヒトミとユウスケも賛成し、次の日の放課後、三人は教室に隠れて、見回りの先生をやり過ごした。
先生がいなくなった後、教室を出た三人は、廊下を通り、階段を二回上って三階に向かう。
消えてしまった生徒のランドセルが、三階の廊下のつきあたりに残されていたからだ。
古い木造の校舎は、歩くと床がきしんで、ぎしぎしと鳴る。
生徒がみんな帰ってしまった夕方の校内では、その音がよく響き、いつも通っている学校も、なんとなく不気味に感じられる。
「あれ?あそこにいるの、サオリじゃない?」
ヒトミが言った方向に誰かいる。
見ると、例の廊下のつきあたりに、クラスメートのサオリが立っていた。
こちらに背中を向けているので、顔までははっきり分からないが、確かにサオリのようだ。
「サオリ、忘れものしたの?」
ユウスケが声をかけたが、その言葉が聞こえていないかのように、サオリは、つきあたりの壁に向かって歩いていく。
聞こえなかったのかなと思い、ユウスケは近付いて、サオリの肩を叩いた。
「ひゃっ」
途端に、ユウスケは驚いて手を離してしまった。
サオリの体が、氷のように冷たく、体温が感じられなかったからだ。
そして、そのままサオリは歩き続け、吸い込まれるようにして、壁の中に消えてしまった。
あっけにとられたように、三人は、しばらく動くことが出来なかった。
「うそ……サオリが消えちゃった!?」
「どうしよう……。とにかく先生を呼んでこなくちゃ……」

ちょうどその時、階段を上ってくる足音が聞こえた。
三人はどきりとしたが、それが担任のシマダ先生だったので、ひとまず安心した。
「あなたたち、まだ残っていたの?早く帰りなさいね」
「先生、大変なんです。サオリが……サオリが、そこで消えちゃったんです!」
マサシたちは、こっそり残っていたことも忘れて、さっき見たことを、大慌てで先生に伝えた。
先生は、とても信じられない様子だったが、マサシたちの話を聞き終わり、やがて言った。
「あなたたちがウソを言っているとは思えないけど、ちょっと信じられないわ。サオリさんなら、もう帰ってるはずだけど……」
「本当なんです、先生。それに、ユウスケがサオリの肩に触ったら、すごく冷たくて……」
「そこまで言うんだったら、サオリさんの家に電話して確認してみる?」
先生と一緒に職員室に行ったマサシたちは、電話を借りて、サオリの家にかけてみた。
しばらく待っていると、サオリ本人が電話口に現れた。
「もしもし、サオリ?家に帰ってたの?」
「え?マサシ?……うん、早く帰れって言われてるから、学校が終わったら、すぐに帰ったけど……」
「そのあと、学校に戻ってきてない?」
「今日は、帰ってからずっと家にいるよ。もしかして何かあったの?」
「う、ううん。別に何でもないんだよ」
電話を切ったマサシの肩を、シマダ先生が叩いた。
「心配しなくても大丈夫よ。さ、サオリさんは家にいたんだし、あなたたちも早く帰りなさいよ」
仕方なく三人は職員室を出たのだが、なんだかマサシの様子がおかしい。
真っ青な顔をして、小さく震えている。
ヒトミがそばに来て、心配そうに、マサシの顔をのぞきこんだ。
「どうしたの、マサシ?お腹痛いの?」
「ユウスケ……サオリの体が、すごく冷たかったって言ったよな」
「そうだけど……」
「さっき、先生に肩を叩かれた時、先生の手……すごく冷たかった……」
その時、職員室の扉が開いて、帰り支度をしたシマダ先生がやって来た。
「みんな、もう外は暗いから、一緒に帰りましょう」
先生は言ったが、さっきまで話をしていた三人は、その場に固まってしまったように、黙ったまま先生の顔を見つめている。

「どうしたの……?」
「きゃーっ!!」
「う、うわあああ!!」
途端に、マサシたち三人は、悲鳴を上げて正面玄関に向かって走り出した。
さっきまでシマダ先生だったはずの顔が、ドロドロと溶け始めていたのだ!
玄関までたどり着いたが、鍵がかかっているのか、扉はびくとも動かない。
後ろからはシマダ先生の足音が聞こえてくる。
閉じ込められてしまった三人は、その場から逃げるために、急いで階段を駆け上がった。
三階までやって来たのだが、後ろからだけでなく、前からも、誰かが近付いてくる音がする。
驚いた三人は、思わず立ち止まってしまった。
よく見てみると、薄暗い廊下のつきあたりから、何人もの人が、こちらに向かって歩いてくる。
どの人も、いなくなってしまった生徒と同じ顔をしている。
怖さのあまり、マサシたちは、腰が抜けて立てなくなってしまった。
前からは何人もの人が、後ろからはシマダ先生が、どんどん近付いてきている。
「助けて……花子さん、助けて!!」
花子さんを呼んだことを思い出した三人は、大きな声で叫んでいた。
すると、いつの間に現れたのか、暗い廊下の真ん中、三人のすぐそばに、小さな女の子が立っていた。
おかっぱ頭で、チューリップのアップリケが縫いつけられたスカートをはいている。
女の子の腕の中には、毛玉のような不思議な生き物が抱き抱えられていた。
その生き物は、女の子の腕から飛び降りると、ぴょんぴょんと、マサシたちの周りを飛び跳ねている。
「もう大丈夫よ」
女の子は、しゃがみこんでいる三人を安心させるように言うと、次々に人が出てきている廊下のつきあたりに、鋭い視線を向けた。
「どうして、こんなことをするの?」
女の子の言葉にも耳を貸さず、前後からは、たくさんの足音が迫ってくる。
「しょうがないわね……」
女の子は、アップリケをひきはがすと、薄暗い廊下のつきあたりめがけて投げつけた。
「呪符アップリケ!やみの世界に帰りなさい!」
壁に呪符アップリケがはりつくと、今まで聞こえていた足音や、床のきしむ音が聞こえなくなり、静かになった。
「あ、あなたは……?」
目に涙を浮かべたヒトミが言った。
「わたしは花子……。これからは、もうこんなことは起こらないから、安心してね……」
花子さんは、ズックぐつをペタペタと鳴らして、やみの中へ去っていった。
「あ、ありがとう、花子さん」
三人は、花子さんにお礼を言った。

それから、この学校で生徒がいなくなる事件はなくなり、四年後には、マサシ君、ユウスケ君、ヒトミちゃんの三人も、無事に卒業していきました……。
また時間は流れ、大人になったマサシ君は、小学校のオオタニ先生になりました。
オオタニ先生が職員室を出て教室に向かうと、登校してきた生徒たちが、元気にあいさつをします。
その頃、先生が担任している4年2組の教室では、サトシ君と、きょう子ちゃんが何か話をしていました……。

「会ってみたいから、いっしょに連れてってよ」
「え、えっ、ど、どこへ?」
「もちろん、花子さんの電話ボックス!」

[完]
プロフィール

研究員D

Author:研究員D
「ギリギリ映らない画面端にいるエキストラ研究員」のイメージというのが名前の由来。
基本的に特撮ヲタ。
また、マイナーなものに惹かれる体質。
特撮全般および一部のアニメや漫画(マイナー作品とか古いの)を愛する。

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